研究課題/領域番号 |
25460025
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
内呂 拓実 東京理科大学, 薬学部, 准教授 (00307711)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 抗菌性物質 / エノールエーテル / Ullmannカップリング / 単座配位子 |
研究概要 |
1.GKK1032A2の全合成 GKK1032A2の全合成を達成するにあたっては、最終工程におけるメチルエノールエーテル部位の脱保護が進行しないことが問題となっていた。そこで、これに代わる新たな保護基として、3,3-ジメトキシプロピルエノールエーテルおよびビニルエノールエーテルの2つを立案し、その導入法および除去法についてモデル的な検討を行った結果、これを確立することができた。そこで、3,3-ジメトキシプロピルエノールエーテルを導入した最終中間体を合成し、目的物に導く各工程について検討した結果、極微量ではあるが1H-NMRおよびHRMSが文献値と一致する化合物を得ることに成功した。低収量となった原因は分子内Ullmann反応による13員環構造の構築段階が低収率であったことに起因しており、この工程の収率をさらに改善する必要がある。一方、想定していた全合成の経路が成立する確証が得られたことは大きな収穫であり、今後のさらなる検討を通じて全合成の達成を公表していきたいと考えている。 2.改良型Ullmannカップリング反応の開発 本研究では、各化合物に含まれる高度に歪んだ13員環構造を分子内Ullmannカップリング反応を利用して構築する戦略を採用している。しかしながら、5員環上の第2級水酸基がβ側に存在する基質においては80%程度の高収率で反応が進行するものの、より立体障害を受けやすいα側に水酸基が存在する場合の収率は5~15%にまで低下することが問題となっている。そこで、嵩高い第2級アルコールのモデル化合物としてβ-コレスタノールを選択し、これとアリルヨージトとの反応を通じて反応の改良を試みた。その結果、強配位性の単座配位子であるDMAPを銅触媒に対して過剰量用いる条件下において、望みの反応が顕著に促進されることを新たに見出した。この条件下では、Buchwaldらによって報告されている従来の条件よりも遥かに高収率で対応するエーテル化合物を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
懸案であったGKK1032A2の全合成については、予定していた合成経路が完全に成立することが明らかになったことから、一定の目途を付けることができた。しかしながら、未だ鍵段階である13員環化反応が5%程度の低収率に留まっており、今後のさらなる改良が必要である。この点において、新しいUllmannカップリング反応の開発に成功したことは極めて明るい材料ということができる。本反応では、Buchwaldらによって報告されている従来の条件において、20%前後の収率でしか目的物を得ることができない鎖状の第2級アルコールを用いた場合でも、90%前後の高収率で目的とするエーテル化合物を得ることができる。今後は本反応をGKK1032A2およびFO-7711類の全合成に適用すべく、さらに詳細な検討を行っていく予定である。 一方、本研究の目的であるFO-7711類の合成については、デカヒドロフルオレン骨格の大量合成に向けた改良に成功するなど、順調に進捗しているものの、GKK1032A2と同様にエノールエーテル型保護基の選択が極めて重要な課題となっている。
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今後の研究の推進方策 |
1.新規Ullmannカップリング反応の全合成への応用 今年度の検討において見出された新しいUllmannカップリング反応をGKK1032A2およびFO-7711類の全合成に適用すべく、詳細な検討を行っていく。ここでの課題は基質濃度の低い環境下で最適な反応条件を見出すことにある。一般にUllmannカップリング反応は0.1M程度の高濃度で実施されているが、全合成ではこのような基質濃度を確保することが困難であるため、これよりも20~100倍低い濃度でも収率良く反応が進行する条件(触媒量、銅錯体の形成条件、反応溶媒、反応温度)を明らかにしていく予定である。 2.FO-7711類の全合成に最適なエノールエーテル型保護基の開発 分子内Ullmannカップリング反応によって、高度に歪んだ13員環構造を構築するにあたっては、エノールエーテル部位とベンゼン環部位のπ-πスタッキングによる遷移状態の安定化が極めて重要であることが明らかになっている。そこで、今年度開発したビニルエノールエーテルを含む、様々なエノールエーテル型保護基を導入した中間体を合成し、その環化反応の検討を通じて、本反応に最適な保護基を明らかにしていく予定である。 3.FO-7711類の全合成 上記の検討を通じて、鍵段階の収率を確保することができれば、既に確立している大量合成法を利用してデカヒドロフルオレン部位の大規模な合成を行い、FO-7711類として推定した化学構造をもつ化合物群の合成に進んでいく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
本計画における重要な鍵段階であるUllmannカップリング反応において、高圧条件下での反応の検討を予定しており、これに用いる反応装置の導入を計画していたが、触媒系における配位子の見直しにより改良の兆しが見られたため、当年度は予定していた金額を物品費に回すことにより、上述の検討に集中することにした。その結果、Buchwaldらによって報告されている従来法よりも優れた新しい反応の開発に成功した。 当年度の検討に機器備品費として予定していたうちの多くの金額を消耗品費に費やしたため、高圧反応装置の次年度以降の導入は困難になった。これについては、他の競争的資金への応募・採択を通じて果たしていきたいと考えている。その結果、今年度の補助金に若干ではあるが残額が生じたので、次年度以降に低下する物品費の補充(試薬や実験器具の購入費)に充て、当初の計画を強力に推進していく予定である。
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