最終年度において、π-ベンジルパラジウム(Ⅱ)が水中におけるborrowing hydrogen methodology によるベンジル化反応において、有効な中間体であることを初めて見出した。本反応は電子不足なアニリンに対して中等度から高等度の収率でN-モノベンジル化を与えた。反応機構の解明のため、D化アルコールを用いた交差実験を行ったところ、borrowing hydrogen pathwayを支持する結果が得られた。本反応は塩基を必要とせず、中性条件で行うことができる。 研究期間全体を通じて、π-ベンジルパラジウム(Ⅱ)の反応性ならびに様々な化合物の合成への応用を検討した結果、水を溶媒とすることによりヒドロキシ基が活性化されて、不活性なベンジルアルコールからπ-ベンジルパラジウム(Ⅱ)錯体を経由する新しい反応を開発できることがわかった。本研究は、水を積極的に利用する新規反応の開発であり、これまでの有機溶媒中での知見とは異なる新しい発見またはユニークな反応性を見出せる可能性を秘めており、意義深いものである。
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