ラジカル種の発生には化学量論量以上の試薬を用いるなど、環境への負荷も大きく、有機合成に利用するには解決すべき問題が残されている。そこで、ラジカル種の発生に、酸化剤としても還元剤としても働く光触媒を活用して、ラジカル反応プロセスを触媒化することを目指した。 はじめに、遷移金属光触媒であるルテニウム光触媒を用いた方法を検討し、触媒的なパーフルオロラジカルの発生により始まるカスケード反応を開発した。さらに、光触媒から発生する化学種や反応中間体の酸化還元電位などを比較して触媒サイクルを解明し、その成果を論文として発表した。次に、有機染料系化合物であるローダミンを用いた方法を検討し、カスケード型ラジカル反応に利用できることを確認した。さらに、ローダミンの蛍光スペクトルの消光実験を行ったところ、ヨウ化パーフルオロアルキルを添加した場合に消光が確認された。これらの実験から、考えられる二つの触媒サイクルのうち、ローダミンの励起種が還元剤として働く触媒サイクルが主経路であることを解明し、その成果を論文として発表した。また、不均一系光触媒である酸化チタンを用いた研究では、クマリン系色素を担持した可視光応答型酸化チタンを開発し、アセトフェンオン類の還元反応に応用し、その成果を論文として発表した。さらに、研究を重ねる過程で、酸化チタンには、炭素-フッ素結合を還元的に切断する場合があることを見出し、切断反応が起こる基質の検討や反応速度解析などを行った。
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