研究実績の概要 |
脂質二重膜中におけるb2アドレナリン受容体 (b2AR) の動的構造平衡を明らかにするために、再構成高密度リポ蛋白質(rHDL)の脂質二重膜に再構成したb2アドレナリン受容体を調製した。SDS-PAGE解析およびRIリガンド結合アッセイの結果、収量は培地1Lあたり約150 ug、活性割合は80%以上であることが示された。 rHDL中のb2ARは巨大分子であり、重水素化によるNMRシグナルの先鋭化が必須である。そのため、昆虫細胞発現系での重水素化法の確立を行った。その結果、A, C, F, I, L, M, T, V, Y, Wを部分重水素化することで、観測原子に近接するプロトンを効率良く減らして、rHDL中のb2ARのシグナル強度を数倍以上増大させる手法の確立に成功した。 そこで次に、部分重水素化とメチオニン13C標識を両方施した b2AR -rHDLを調製して、逆アゴニスト存在下におけるNMRスペクトルを測定した。その結果、各メチオニン残基のNMRシグナルが、十分な感度で観測された。 次に、活性の異なる様々なリガンドが結合した状態における、重水素化b2AR -rHDLのNMRスペクトルを測定した上で、ミセル状態の解析において活性と対応するシグナル変化を示していたM82のシグナルを重ね合わせた。その結果、ミセル中の b2ARのスペクトルと比べると、部分アゴニスト結合状態の化学シフトが、より完全アゴニスト結合状態に近い値となっていた。このことは、rHDL中では、活性型の割合がやや多いことを示している。また、ミセル状態と比べると、部分アゴニスト結合状態のシグナルが顕著に広幅化しており、特に弱い部分アゴニスト結合状態では、シグナルが二つに割れていた。以上の現象から交換速度がミセルの時よりも小さいことを示された。
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