前年度までに確立した蛍光標識膜貫通ペプチド調製法、リポソーム内一分子FRET測定法を用いて、二回膜貫通型のモデルペプチド(AALALAA)3-G5-(AALALAA)3の膜内自己会合挙動を調べた。無細胞合成法とFmoc固相法による合成を試みたところ、無細胞合成では全長のペプチドが検出されなかったが、Fmoc法でペプチドを化学合成できる事が明らかになった。蛍光色素Cy3B、Cy5でそれぞれN末端を標識したペプチドを合成し、リポソームに組み込んで全反射顕微鏡観察した。リン脂質POPCからなるリポソーム中で、一回膜貫通ヘリックスでは会合が検出できないのと対照的に、二回膜貫通ヘリックスでは過渡的なFRETシグナルが観測され会合―解離を繰り返している事が明らかになった。コレステロールを添加した膜ではさらに強い会合が見られた。また、同程度の会合自由エネルギー変化の条件では、二回膜貫通ヘリックスの会合ダイナミクスは一回膜貫通の場合よりも遅いことが明らかになった。以上の結果より、これまでの研究で主に調べてきた膜貫通ヘリックス二量体が最安定な構造ではなく、それら同士に、より強いbasalな会合駆動力が働くという新知見が得られた。この駆動力は、複数回膜タンパク質の構造形成や膜タンパク質会合に寄与する可能性がある。
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