研究課題/領域番号 |
25460039
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 岐阜薬科大学 |
研究代表者 |
宇野 文二 岐阜薬科大学, 薬学部, 教授 (80160307)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 蛍光プローブ / 電位応答 / 分子内電子移動 / 光誘起電子移動 / フェロセン / クマリン / カルボラン |
研究概要 |
癌細胞の低酸素応答に対する薬物治療や癌の低電位細胞を創薬ターゲットとする新しい研究に期待が寄せられている.本研究では,この基礎となる細胞レベルの研究に欠くことのできない電位応答型の蛍光プローブの開発を目指している. 当該年度は,電位応答型蛍光プローブの候補となるモデル化合物の合成とモデル化合物を用いて光誘起電子移動(PeT)機能発現のための構造探索を行った.そして,PeT機能発現に関する架橋の構造特性について実験的に考察した. 1.モデル化合物の合成:モデル化合物として,蛍光部にクマリン化合物,電位応答部に電位に対する可逆的応答性に優れたフェロセンを選択して,クマリンの6位または7位をフェロセンカルボン酸とエステル結合で架橋して得た置換フェロセンMOB6F,MOB7F,MC7FCを合成した.また,蛍光部位をダンシル基,酸化還元応答部位をフェロセンとして,両者を直接スルホンアミド結合したDFc,また両者をジアミン(NH2-(CH2)n-NH2)(n = 2,3)を介してダンシルクロリドとスルホンアミド結合,フェロセンカルボン酸と酸アミド結合で架橋した化合物E-DFc(n = 2)とP-DFc(n = 3)を得た.さらに,電位応答部位としてホウ素クラスターである種々のo-カルボランを合成した. 2.PeT機能の発現:合成した化合物の電気化学特性を明らかにし,また,酸化応答に対する蛍光特性の変化を観測した.MOB6F,MOB7F,MC7FCはフェロセンの酸化に誘導されて分子内電子移動が起こり,蛍光部位であるクマリンの酸化分解が起こった.一方,DFc,E-DFc,P-DFcは何れもフェロセンに由来する可逆波が観測され,E-DFc,P-DFcには酸化による蛍光の増強が観測された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,モデル化合物を合成する過程があり,研究進展のネックとなると考えられた.しかし,昨年度,2つの系について合成が予定通り進行し,得られたクマリン-フェロセン架橋化合物,ダンシル-フェロセン架橋化合物では,それぞれ異なる酸化応答が示され,今後の研究展開が期待できる結果を得た.したがって,今年度から実施予定である電子移動反応を分子認識とする蛍光プローブの基礎概念の構築に展開するための準備ができたと考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
本研究では,電子移動反応に応答する電位応答型蛍光プローブの構造特性を明らかにし,論理的な蛍光プローブの設計と試作を研究のゴールとしている.前年度に合成したモデル化合物の内,クマリン-フェロセン架橋化合物については酸化に伴う分子内電子移動が惹起される新しい系として,論文投稿する方策である.また,ダンシル-フェロセン架橋化合物では酸化応答による蛍光特性の変化が期待されたので,架橋の長さ(n = 0~3)とPeT特性の関係を明らかにし,この系を用いて電位応答型蛍光プローブの論理的設計に展開する予定である. 後者の研究では,ダンシル-フェロセン架橋モデル化合物を用いて,電位応答部の酸化還元状態における蛍光部と電位応答部間の分子内電子移動(ICT)やPeTを考察する目的で,サイクリックボルタンメトリー(CV)法とCVシミュレーションによる酸化還元特性を評価し,定電位電解によって生成した酸化還元状態のICTやPeTなどの分光学的特性を薄層セルを用いた紫外可視吸収および蛍光スペクトル測定によって行う.一方,モデル化合物のICTやPeT発現と架橋構造との関係に対する理論を構築するため,高度な基底関数を用いた密度汎関数法計算を実施する.そして,これまでの蛍光プローブの設計で用いられてきた蛍光部と基質認識部のHOMOやLUMOの軌道エネルギーの相対配置のみならず,酸化還元状態の変化に対してICTを抑制してPeTを機能させるためには両者の空間を通したHOMO-LUMO相互作用が重要である点を指摘し,架橋構造の役割に言及する予定である. また,新たな電子応答部位としてカルボランの電子移動の研究も行う予定である. 以上によって,最適なPetの機能発現構造を明らかにし,蛍光プローブとしての架橋の機能発現構造を実験的および理論的に明白にして電位応答型蛍光プローブの分子設計を行い,試作にこぎつける.
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次年度の研究費の使用計画 |
モデル化合物の合成では,出発物質をはじめとする原材料費に多くの助成金を当ててきた.しかし,一度に大量に試験合成することは失敗したときのロスが非常に高いため,小さいスケールでの合成を行ってきた.したがって,原材料費として予定していた予算の一部が次年度使用額として残った. 今年度以降の研究継続には,昨年度に合成したモデル化合物を大量に得る必要がある.したがって,生じた次年度使用額は,この原材料費に当て,今年度以降の研究がスムーズに進行するようにする予定である.
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