植物の甘草の根に含まれるグリチルチリン酸は両親媒性分子の構造をもつ。研究を通じて、最も注意を払ったのは、水への溶解性がpHに大きく依存することであった。この物質の親水基は三個のカルボン酸(弱酸基)であり、研究の過程で、その弱酸基が溶液物性に深く影響を及ぼしていることが分かった。グリチルチリン酸の水への溶解度は0.15mMであり、その時のpHは5であった。緩衝水溶液を用いてpH5以上の条件に設定すると溶解した。そこで、pH変化に伴う表面張力測定の実験を行った。その結果はcmc値はpH5で2.9 mM (γcmc= 55.2 mN m-1)、pH6で5.3 mM (γcmc= 56.8 mN m-1)であることが分かった。pH7では表面張力は低下したが、臨界ミセル濃度に対応するポイントは見つけられなかった。蛍光測定及び光散乱測定でも同様の結果であった。つまり、pH5以上で溶解し、会合体を形成できるpH範囲は弱酸性領域のpH5-6である。中性以上では、溶解するが、会合体を形成しないことが判明した。これは、中性pH以上で親水基のカルボン酸が完全解離すると、両親媒性分子の疎水性と親水性のバランスが崩れ、相対的に親水性になり、会合体を形成しなくても、充分に溶解できるためである。また、TEM観察とSPring-8の小角X線散乱(SAXS)測定から、この会合体は棒状ミセルを形成していることが分かった。その平均的なサイズは円柱モデルで解析すると、半径1.5nm、長さ21nmであることが判明した。故に、乳化剤としては、pH5以上で適応でき、可溶化剤としては、pH5-6の範囲で使用できることを提示することができた。また、pHを変化させることで、薬の放出等の制御も可能になる可能性も提示できた。グリチルリチン酸の類似化合物に対しても同様の研究を行い、成果を得ることができた。
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