研究課題/領域番号 |
25460048
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 神戸女子大学 |
研究代表者 |
吉川 豊 神戸女子大学, 健康福祉学部, 教授 (20388028)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 金属錯体 / 無機医薬品 / 糖尿病 / 生活習慣病 |
研究概要 |
厚生労働省の「2012年国民健康・栄養調査結果」より、糖尿病が強く疑われる成人男女は約1000万人であり、2007年の調査と比較して約60万人増加していることが明らかとなった。また、高血圧に関しては、2008年の調査で、継続的な治療を受けていると推測される患者数は約800万人であり、生活習慣病は日本国内で大きな問題となっている。 そこで本研究では、これらの糖尿病や高血圧を代表とする生活習慣病の治療・予防を目指した金属錯体(有機化合物と無機金属化合物が結合した化合物)の合成、ならびに、in vitroでの治療効果の活性評価を行った。 化合物の合成に関しては、以下の二つの試みを行った。1.マルトールをリード化合物として用い、酸素原子を硫黄原子に変換可能なローソン試薬や、酸素原子をセレン原子に変換可能なウーリンズ試薬を用い、マルトールの酸素原子を硫黄原子やセレン原子に変換した。その他、新規のシッフ塩基由来の有機化合物の合成も行い、得られた有機化合物は無機金属化合物と反応させ、金属錯体を合成した。本実験で合成した化合物は、カラムクロマトグラフィー法や再結晶法を用いて精製を行い、赤外吸収スペクトル法、質量スペクトル法、および元素分析法などを用い、合成が成功していることを確認した。2.糖尿病治療薬として臨床で使用されているアガルボースと亜鉛や第一遷移系列金属元素を緩衝液中で撹拌し、有機物と無機金属化合物の複合体を形成させ、新規化合物を得た。 上記の1と2で合成できた化合物を用い、脂肪細胞を用いたインスリン様作用の評価、および、二糖類を単糖類に分解する酵素であるα-グルコシダーゼの阻害活性の評価を行うと、酸素原子を硫黄やセレン原子に変換することで活性が上昇することが明らかとなった。また、医薬品のアガルボースとコバルトの複合体は、α-グルコシダーゼの阻害作用を強めることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、平成25年度から平成27年度の三年間継続して行う研究であり、トータル的な観点からは、おおむね順調に研究は進展していると感じている。 しかしながら、申請者は平成25年4月から所属機関が変わり、すぐに使用できる装置や器具・機械など身の周りの環境が申請時とは変わってしまったため、研究の体制作りと、器具・機械の確保に時間を割く必要があった。そのため、新赴任先で行うことのできる研究から優先的に行ったため、当初の計画の中で一年目に予定した内容の一部が二年目に移るということや、当初の計画では、二年目に行う予定であった研究内容を、一年目で行うという実験スケジュールの変更を適宜行った。 そのため当初は、大きく分けて、一年目に合成、二年目にin vitro評価、三年目にin vivo評価というような年度ごとで区切りをつけて研究を行うように計画していたが、一年目と二年目で、合成とin vitro評価を並行して行うようにスケジュールを変更することで、おおむね研究は順調に進展しているという感覚を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
1年目の達成度を鑑み、当初の予定と比べ、進んでいる内容と遅れ気味の内容を精査し、今年度で調節を行う予定である。特に合成に関しては、申請者が平成25年4月から所属が変わったこともあり、器具・機械の確保に時間がかかったため、多少遅れ気味であった。そのため今年度は、連携研究者の加来田准教授とより密接に連絡を取り合い、当初予定した新規化合物の合成を、効率よく完成まで進める予定である。その一方、昨年度に合成に成功した化合物に関しては、実験計画を前倒しに進めており、脂肪細胞を用いてのin vitro実験系によるインスリン様作用の評価やα-グルコシダーゼの阻害実験を行っており、その実験系を今年度も用い、合成できた化合物を順次in vitroの実験系で評価を行う予定である。 今後は、当初の予定通り、3T3L1培養脂肪細胞(通常培養とインスリン抵抗性状態の培養)を用い、合成した金属錯体を細胞に作用させ、ELISA法を用いたアディポネクチン分泌量の定量評価を行うことで、インスリン様作用の評価と併せて、活性の高い金属錯体のスクリーニング試験を行う。そして、これらの実験から活性の高い化合物を選抜し、2型糖尿病とメタボリックシンドローム状態を併せ持つKK-Ayマウスを用い、最終的には、in vivo実験での糖尿病治療効果を、摂餌量変化、体重変化、血糖値変化、耐糖能変化、糖化ヘモグロビン量、各種生化学パラメータの測定、血清中のアディポネクチン量の定量、および化合物を投与した動物から採取した臓器の組織切片を作成し臓器に対する化合物の影響の評価を行う予定である。これらの結果は学会発表ならびに国内外の雑誌に投稿することにより、世間にその成果を公表し、適切な形に構造変換した、高活性な金属錯体の提案を行う予定である。
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