糖尿病と糖尿病予備群を合計すると、国民の5人に1人が該当すると報告されている。糖尿病を初めとする生活習慣病の患者数の増加傾向は、ここ数十年収まる気配を示していない。このような背景の下、多くの研究機関において、患者のQOL向上や医療費の増大を抑制させることを目的に、糖尿病を初めとする生活習慣病を完治させる医薬品の開発が試みられている。 本研究テーマで中心的に行っている有機カルコゲン錯体の中でも特に、Se含有の配位子を持つ亜鉛錯体の抗糖尿病作用の評価を継続的に行い、今年度は昨年度までとは異なったモデル動物を用いた評価においても抗糖尿病効果を示すことを見いだした。この内容に関しては、現在論文投稿中である。さらに、昨年度の研究において、チオセミカルバゾンを配位子にもつ金属錯体が、インビトロにおけるスクリーニングテストにおいて、高いインスリン様活性を示した。その中でも特に亜鉛錯体は高い体内移行性を示し、2型糖尿病モデル動物に対して抗糖尿病作用を示すことを明らかにした。一方、異種金属を含有させた複核錯体や、コーヒーと金属イオンの相加作用による抗糖尿病効果の評価も行った。 上記のように糖尿病克服を目指した金属錯体の探索に目処がついてきたため、メカニズムの解明にも本年度は着手した。抗糖尿病作用を有する亜鉛ヒノキチオール錯体([Zn(hkt)2])を用い、インビトロでのインスリンシグナル経路への影響評価、各種代謝酵素への影響評価、インビボでの組織形態学的評価を行い、[Zn(hkt)2]はインスリンシグナル経路とは異なった経路で、末梢のインスリン抵抗性を改善している可能性を示すデータを得た。これらの結果は現在論文投稿中である。 過去三年間のまとめとして、糖尿病治療効果の候補物質として、強いα-グルコシダーゼ阻害効果を有する金属錯体をまとめての論文投稿も行い、1つの論文がアクセプトされた。
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