研究課題
基盤研究(C)
生体内での慢性化した炎症反応が、がん・自己免疫疾患・生活習慣病を含むさまざまな疾患発症や病態悪化に寄与することが近年注目されており、「炎症反応の質・量の制御」や「持続的炎症状態成立」の根底にある分子機構の理解につながる基礎的知見を得ることは重要である。現在までに我々は持続的炎症を伴うさまざまな実験的疾患病態においてTyrosine kinase2 (TYK2)が促進的に寄与することを、欠損マウスを用いた解析によって明らかにし報告した(J Immunol. 2011 187(1):181, Int Immunol. 2011 23(9):575.)。平成25年度は上記の成果をもとにさらに解析を行い、炎症に役割をもつマクロファージにおけるTYK2 の機能解析を進めた。マウスマクロファージ由来細胞株J774細胞に対しsiRNAを用いTYK2をノックダウンし、既知36種のケモカインmRNA発現量への影響をRT-PCR法で調べた結果CXC-chemokine ligand 10 (Cxcl10; IP-10)等の複数の炎症促進性のケモカイン発現がTYK2ノックダウンによって強く抑制されることを見出した。培養上清中のCXCL10タンパク質量もTYK2ノックダウンによって減少した。J774細胞のみならずTYK2欠損マウス骨髄由来のマクロファージにおいてもCxcl10遺伝子発現及びタンパク質産生量の低下が認められた。よってTYK2はマクロファージにおけるCxcl10等のケモカイン産生へ寄与し炎症促進的な役割を担うことが示唆された。このようなマクロファージ機能変化がTYK2欠損により引き起こされる分子機構について引き続き解析を進めている
3: やや遅れている
細胞培養を用いた実験によってマクロファージ機能にTYK2が役割をもつことを見出しつつありin vitroでのTYK2機能評価はおおむね順調である。一方でin vivoの炎症病態モデルを用いTYK2寄与度の評価やケモカイン関与の検証の目的を達成する点について、安定的な実験結果を得るため現在も実験条件の検討を行っている段階でありやや滞っている。この遅れは軽微であり研究計画全体の遂行に大きく影響するものではないと考えている。
平成26年度以降は動物個体レベルでの炎症応答におけるTYK2 の役割の解析を進める予定である。TYK2 欠損による影響がこれまでに認められているいくつかの実験系に加え、未検討の炎症病態モデルも含めて解析しどのような病態にTYK2 の寄与が認められるか明らかにする。TYK2 によるケモカイン制御の可能性を考慮し、ケモカインもしくはケモカイン受容体欠損マウスで症状抑制が報告された病態モデルを候補として選定し病理組織染色や各疾患発症マーカータンパクの血中濃度を測定し野生型マウスとTYK2 欠損マウスを比較する。また、炎症反応に重要な役割をもつ細胞群の生体内動態・はたらきに焦点を当て野生型及びTYK2 欠損マウスの比較によりTYK2 の役割を解析する。抗原提示細胞(マクロファージや樹状細胞)や好中球等の機能解析に加え炎症反応における役割が近年注目され始めている自然リンパ球等の新しい細胞群の関与の可能性も考慮に入れ、TYK2 がどのような炎症細胞において役割をもつか明らかにする。本研究ではin vivo 炎症誘導実験のうちTYK2 の寄与が認められた実験系にて、病巣局所における炎症性サイトカインやケモカイン産生を定量PCRやELISAで調べ、関与する細胞群をフローサイトメトリーによる特異的表面マーカー解析などの手法を用いて同定する。TYK2が遺伝子発現に寄与すると同定された上述のCxcl10やその他ケモカインが、in vivo実験系でも産生量に差が認められるか定量PCRやELISA法で確かめ、ケモカインもしくはその受容体中和抗体等を投与し炎症病態が改善できるかin vivoでの阻害実験への展開を予定する。
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