研究課題/領域番号 |
25460062
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
宮浦 千里 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20138382)
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研究分担者 |
稲田 全規 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80401454)
平田 美智子 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (40544060)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 乳がん / 骨転移 / 骨吸収 / プロスタグランジンE / 血管新生 / 固形腫瘍 / イメージング解析 |
研究実績の概要 |
乳がんは骨に転移しやすく、骨転移巣は散在性に発生して激しい骨破壊が起こる。乳がん細胞(4T1)をマウスに移入し、ルシフェラーゼ遺伝子導入による発光イメージングを行ない、転移巣の全身イメージング検出系を確立し、乳がんの転移におけるPGEの役割を解析し、EP受容体阻害剤の作用を検討した。本年度の研究成果は以下の2項目である。 (1)乳がん骨転移のIn vivo解析:乳がん細胞(4T1)をマウスに移入し、骨転移を起こさせた。骨転移巣では、大腿骨や頚骨に激しい骨破壊が観察された。骨の解析は軟X線解析、ならびに3次元μCTにより高精度の解析を実施した。PGEレセプターのシグナルを遮断するために、EP1アンタゴニスト・EP2アンタゴニスト・EP3アンタゴニスト・EP4アンタゴニストの合成と動物実験に向けた投与量を検討した。その結果、EP4アンタゴニストを乳がん移入マウスに投与したところ、骨転移と腫瘍形成が顕著に抑制されることを見出した。その効果は発光イメージングによっても検出した。さらに、次年度に向けて、マウス前立腺がん細胞(TRAMP)の転移系の確立も行った。 (2)In vitroメカニズム解析: EP1~EP4アンタゴニストの作用機構に着目し、乳がん細胞の浸潤・骨RANKL発現・血管新生(管腔形成)について培養系および生化学的に解析した。その結果、乳がん細胞の増殖と浸潤はEP3アンタゴニストにより経度に抑制された。一方、骨RANKL発現と血管新生(管腔形成)は、EP4アンタゴニストにより顕著に抑制された。従って、乳がんの骨転移巣の骨破壊には、PGEが宿主骨芽細胞に作用し、EP4を介したRANKL発現誘導による骨吸収亢進が関与すること、EP4シグナルを阻害することにより乳がんの骨転移と骨破壊を阻止できることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
現在までの達成度について(1)当初の計画以上に進展している、と自己評価した理由は、当該年度の研究計画としては、乳がんの骨転移におけるEPsアンタゴニストの役割解明において、これまでに合成が困難であったEP2アンタゴニストを合成して動物実験で評価できる状態になったこと、培養系で血管新生を評価する系として管腔形成評価系を画像解析と細胞染色の両方により新規に確立できたことが挙げられる。また、当初計画では、次年度(平成27年度)計画の一部であった、マウス前立腺がん細胞(TRAMP)の転移系の確立も前倒しで実施して、前立腺がんの骨転移や肺転移の検出に成功したことである。これら知見により、次年度に予定している前立腺がんを用いた研究実施を円滑に加速することが可能となる。この前倒しの研究達成は当初の計画以上の進展であると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題では、マウス乳がんの骨転移におけるプロスタグランジンE(PGE)の関与ならびにその受容体であるEP1~EP4の選択的アンタゴニストを用いて、骨転移を制御するPGEはEP4を介したシグナルを利用していること、EP4アンタゴニストの投与により乳がんの骨転移が抑制されることを明らかにした。最終年度である平成27年度は、乳がんのみならず前立腺がんについても検討を展開し、癌の転移抑制剤の開発に向けた創薬展開を進める。本研究課題の次年度(平成27年度)の研究計画は以下の2項目である。 (1)マウス乳がんについて転移抑制効果を発揮したEPsアンタゴニストに着目し、ヒト乳がん細胞(MDA)を移入したヌードマウスへの投与試験によりヒトがん細胞への有効性を立証する。EPsアンタゴニストとしては、EP1アンタゴニスト・EP2アンタゴニスト・EP3アンタゴニスト・EP4アンタゴニストの4種を用いる。新たに、選択性が極めて良好なEP2アンタゴニストを使用できるようになったことから、EP2アンタゴニストとEP4アンタゴニストの効能比較も可能である。マウス乳がんのみならず、ヒト乳がん細胞でもEPsアンタゴニストによる転移抑制を立証できれば、臨床応用への展開も視野に入ると期待される。 (2)高率に骨転移を起こす前立腺がんについて、マウス前立腺がん細胞(TRAMP)をマウスに移入後、EPsアンタゴニストの投与実験を実施して、骨転移・肺転移・固形腫瘍形成・延命への有効性を評価する。PGE, EPs, ERに関するIn vitro解析も進展させ、EPs作働薬の創薬展開を実現する。平成26年度に前倒しでTRAMP細胞を用いた転移系を確立している。従って、イメージング評価も可能とすることにより、前立腺がんの転移実験を速やかに実施できる。
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