研究課題/領域番号 |
25460063
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
荒木 保弘 東京工業大学, フロンティア研究機構, 特任助教 (60345254)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | オートファジー / 出芽酵母 / リン酸化 / キナーゼ / ホスファターゼ |
研究実績の概要 |
オートファジーは真核生物に普遍的に備わる大規模なタンパク質分解系である。オートファジーは生体内物質のリサイクルシステムとしての機能を担っており、外部の栄養環境によって活性が制御される。その際、関連因子のリン酸化や脱リン酸化がその誘導あるいは抑制のスイッチとして機能している。オートファジー制御に必須な二つのタンパク質リン酸化酵素(キナーゼ)、TorとAtg1が同定されているのに対し、脱リン酸化に関与するタンパク質ホスファターゼの知見は未だに得られていない。出芽酵母には141のキナーゼに対しホスファターゼは38しか存在せず、各ホスファターゼの機能が重複している。このためホスファターゼの機能を探ることが非常に困難となっている。 オートファジー関連ホスファターゼの同定を目的に、複数のホスファターゼを同時に欠損した酵母株を用い、機能喪失から“必要性”を検証するアプローチと、ホスファターゼの機能亢進によるオートファジー活性への影響から“十分性”を検証するアプローチを試みた。前者のアプローチからPP2Aホスファターゼとカルシニューリンを共に欠損した酵母においてAtg13のリン酸化状態に異常を生じることを見出した。Atg13はリン酸化-脱リン酸化サイクルを介してオートファジー活性のオンオフを担うスイッチとして機能することから、この二つがオートファジー活性を制御するホスファターゼであると考えられる。また後者のアプローチから、細胞内発現量を増加することによって、外部の栄養状態非依存的にオートファジーを誘導するホスファターゼ、飢餓条件下においてオートファジー活性を抑制するホスファターゼを同定した。これらは共にAtg13のリン酸化状態に異常が見られないことから、リン酸化を介した未知のオートファジー活性制御経路に寄与すると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
オートファジー活性のスイッチ蛋白質Atg13は富栄養条件下でTorキナーゼにより高度にリン酸化され、オートファジー活性の抑制に寄与する。飢餓に呼応してAtg13が脱リン酸化されることで抑制が解除されオートファジーが誘導されるが、この脱リン酸化を担うホスファターゼは未同定であった。 平成25度、ホスファターゼ欠失酵母株を多数探索することにより、リン酸化Atg13のホスファターゼとしてPP2Aを同定した。その後の解析でPP2A欠失した酵母でもAtg13の脱リン酸化が弱く起こり、有意なオートファジー活性を有することが明らかとなり、Atg13を基質とする他のホスファターゼの寄与が示唆された。PP2A と生育に非必須である36のホスファターゼの二重変異株を検索し、カルシニューリンを候補として見出した。 出芽酵母には141のタンパク質キナーゼに対し、タンパク質ホスファターゼは38しか存在せず、各ホスファターゼの機能が重複している。この重複は単独破壊株を用いる機能喪失から必要性を検証するアプローチを困難にしている。従って、本年度はホスファターゼの機能亢進、具体的には過剰発現によるオートファジー活性への影響から、十分性を検証することを新たに試みた。外界の酵母の既存の発現系は栄養変化、金属イオンを利用するが、オートファジー自身がこれらに左右される。そこでオートファジーへ全く作用することなく遺伝子発現できるベータエストラジオール誘導系を構築した。38種のホスファターゼの発現量を増加したときのオートファジーへの影響を検証し、1. 富栄養条件下でAtg13の脱リン酸化を促進する2. 富栄養条件下でAtg13の脱リン酸化を介さずオートファジーを活性化する、3. 飢餓条件下でオートファジー活性を阻害する、以上三つのカテゴリーのホスファターゼを同定している。
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今後の研究の推進方策 |
Atg13ホスファターゼの候補として単離したPP2Aとカルシニューリンのオートファジーへの関与を、ALPアッセイ、GFP-Atg8切断アッセイといったオートファジー活性測定系により検証する。またカルシニューリンはカルシウムイオンにより活性制御されることから、カルシウムの関与が示唆される。蛍光インジケーターを用い、オートファジー誘導時のカルシウム動態変化、カルシウム情報伝達系の分子機構を検証する。 過剰発現を用いたスクリーニングにより、富栄養条件下でオートファジーを誘起する、または飢餓条件下でオートファジー活性を阻害する、二種のタンパク質ホスファターゼを単離した。これらは共にオートファジー抑制するTorキナーゼの活性に何ら影響を与えないことを予備的実験結果を得ていることから、両ホスファターゼの作用点はTorキナーゼより下流、おそらくマシナリーであるAtg蛋白質であると考えられる。従って、リン酸化状態の変化、試験管内脱リン酸化アッセイ系を用い、基質となっているAtg蛋白質を同定する。基質が新規オートファジー関連蛋白質である可能性も鑑み、以下のストラテジーに依りホスファターゼの基質候補を網羅的に同定することを試みる。定量的リン酸化プロテオームによる過剰発現株と野生株間のリン酸化タンパク質の包括的比較を行い、リン酸化状態に差異が見られるタンパク質を同定する。これらにより、ホスファターゼの基質蛋白質を余すことなく単離する。基質を同定した暁にはホスファターゼの活性制御機構、拮抗するキナーゼの単離・同定を試み、オートファジーアテニュエーションシステムの全体像の理解とつなげたい。
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