オートファジーは真核生物に普遍的に備わる大規模なタンパク質分解系であり、生体内物質のリサイクルシステムとしての機能を担っている。外部の栄養環境による活性制御には、関連因子のリン酸化や脱リン酸化がその誘導あるいは抑制のスイッチとして機能している。オートファジー誘導に必須な二つのタンパク質リン酸化酵素(キナーゼ)、TorとAtg1が同定されているのに対し、負の制御を担うであろう脱リン酸化酵素(ホスファターゼ)の知見は未だに得られていない。出芽酵母には141のキナーゼに対しホスファターゼは38しか存在せず、各ホスファターゼの機能が重複している。このため機能喪失をもとにしたホスファターゼの同定が非常に困難となっている。 オートファジー関連ホスファターゼの同定を目的に、機能亢進によりオートファジーを抑圧するホスファターゼの探索を出芽酵母をモデル系に用いて行った。最近構築されたヒトホルモンを誘導剤とした強制発現誘導系を用いることにより、飢餓条件下においてオートファジー活性を抑制する二つのホスファターゼMsg5とSdp1を見出した。Msg5とSdp1 はともにキナーゼであるSlt2を負に制御していることが知られている。Slt2欠損株が、二つのホスファターゼの強制発現で観察された表現型、即ちオートファジー活性の低下、Atg8の発現量の低下、Atg13の脱リン酸化の亢進、を示した。Slt2のキナーゼ活性は飢餓後早い時間で活性化されることを鑑みると、Slt2はオートファジーを誘導を正に制御するのに対して、ホスファターゼであるMsg5とSdp1はこれに拮抗していると考えられる。本研究により、これまでのオートファジー研究に適用されていなかった強制発現による“機能亢進”を用いた網羅的検索により、これまで看過されたオートファジー関連新奇因子が同定され、分子機構に新たな一面を明らかにした。
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