当該年度は細胞運動調節機構「Myosin1E-SH3P2システム」について特にカベオラ形成との関与に着目して解析を行い、以下に示すような結果を得た。 (1)Myosin1Eによるカベオラ形成調節の分子メカニズム 前年度までの解析より、Myosin1EはそのSH3ドメインを介してCavin3と結合すること、またCavin3との相互作用を介してカベオラの内在化を促進すること、さらにそれによってAktの局所的な活性化を誘起する可能性を示した。これらを踏まえて解析を進めた結果、Cavin3(dLZ)(Cavin3のオリゴマー化を阻害した変異体)を発現させた細胞ではAktの局所的な活性化が認められないこと、またSH3P2(S202A)(Myosin1Eの細胞膜への移行を阻害する変異体)を発現させた細胞でも同様にAktの局所的な活性化が抑制されることを見いだした。これより、細胞運動先導端へ移行したMyosin1EがCavin3との結合を介してカベオラの内在化を誘導し、それによってAktの局所的な活性化が引き起こされることが、Myosin1Eによる細胞運動亢進の一因となることを明らかにした。 (2)Myosin1Eおよびカベオラ形成調節因子の発現調節の分子メカニズム 細胞運動能が亢進したいくつかのがん細胞株を用いて、各種シグナル伝達阻害剤がMyosin1EおよびCavin3の発現に及ぼす影響を検討した結果、いずれの阻害剤によっても有意な影響は認められなかった。相対的に細胞運動能が高いがん細胞株では共通してMyosin1E、Cavin1/3、Caveolin1の発現が上昇していること、またMyosin1E、Cavin3あるいはCaveolin1の発現抑制によって細胞運動が阻害されることから、Myosin1Eを介したカベオラ形成調節ががん細胞の運動能の制御において重要な役割を果たす可能性が示された。
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