研究課題
基盤研究(C)
ヒト非小細胞肺癌A549細胞をシスプラチン(CDDP)含有培地中で培養することによって5 microM CDDP耐性株(CDDP-R)を樹立した。CDDP-R中の6種のアルドケト還元酵素(AKR)(1A1、1B1、1B10、1C1、1C2と1C3)の発現量を半定量PCR法にて測定して非耐性A549細胞と比較したところ、耐性化に伴う3種の酵素(AKR1B10、AKR1C1とAKR1C3)の発現量増加が見られ、その中でもAKR1B10の発現上昇が顕著であった。また、耐性化によるAKR1B10発現量の増加はウェスタンブロット分析およびピリジン-3-アルデヒド還元活性においても確認された。未処理のCDDP-Rの核中Nrf2量とNrf2遺伝子ヘムオキシゲナーゼ1発現量はどちらもA549細胞よりも著明に多かったことから、CDDP耐性化に伴うAKR1B10の発現上昇はNrf2の異常活性化に起因すると推察された。A549細胞のCDDP感受性は、AKR1B10の過剰発現によって低下し、AKR1B10 siRNAによる発現抑制やその特異的阻害剤オレアノール酸での前処理によって有意に高まったことから、AKR1B10は肺癌細胞のCDDP耐性化に関わる主要因であると示唆された。CDDP-Rの脂質由来反応性アルデヒド(4-ヒドロキシノネナールと4-オキソノネナール)還元能は非耐性細胞よりも高かった。また、AKR1B10の過剰発現は両反応性アルデヒドの細胞毒性に対する感受性を低減した。さらに、酸化ストレス依存性アポトーシス機序に関わる小胞体ストレスのマーカータンパク質(sXBP1とCHOP1)のCDDP処理による増加は、耐性化やAKR1B10過剰発現によって抑制された。以上より、AKR1B10の高発現は細胞の抗酸化能を高めることによって肺癌細胞のCDDP耐性化を促進すると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
肺癌細胞の抗癌剤耐性化におけるアルドケト還元酵素(AKR)1B10の役割を明示するために、平成25年度には、①精製酵素を用いた検討と②肺癌細胞の抗癌剤耐性化におけるアルドケト還元酵素(AKR)1B10の発現変動とその意義を調べることを目的として研究を進めた。当初予定していた項目②の実験内容(抗癌剤耐性化に伴うKeap1の変異、Nrf2による転写を調節する因子の変動、増殖因子の細胞外分泌)については実施できなかったが、平成26年度に予定していた酸化ストレス経路(小胞体ストレス、ノネナール毒性に対するAKR1B10の関与等)を今年度内に調査することができたため、ほぼ予定通りに進行していると思われる。
平成25年度の研究遂行において研究計画の大幅な変更を余儀なくされるようなことはなかったため、平成26年度は予定通り、培養細胞を用いたCDDP耐性機序の解明とそれに対するAKR1B10の意義を明確にしていく予定である。また、研究の進捗状態が良好な場合には、平成27年度に予定している動物実験における実験系と判定方法の確立を前倒しして行うことを予定している。
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