研究課題/領域番号 |
25460073
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
多胡 めぐみ 慶應義塾大学, 薬学部, 講師 (30445192)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | プロテオーム / JAK2 / シグナル伝達 / 慢性骨髄増殖性腫瘍 |
研究概要 |
慢性骨髄増殖性腫瘍 (MPN) の原因遺伝子としてチロシンキナーゼJAK2の点変異体が同定されたが、現在までJAK2の点変異がMPNを引き起こすメカニズムは不明である。本研究では、分子レベルでMPNの発症機序を解明することをめざして、細胞内においてJAK2変異体が誘導するシグナル分子の状態変化を同時に網羅的に検討するために、定量的リン酸化プロテオーム解析を行い、JAK2変異体の下流で特異的にリン酸化されるタンパク質を探索した。その結果、JAK2変異体の下流で特異的にリン酸化される分子を約50種類同定した。その中には、DNAの安定化に関与するファンコニ貧血症原因因子 (FANC) と呼ばれる一連の因子が含まれており、今年度は、JAK2変異体発現細胞におけるFANCファミリーの役割に着目した。JAK2変異体は、転写因子STAT5の活性化を介して、FANCファミリーの一つであるFANCCの発現を特異的に誘導することを見出した。また、JAK2変異体発現細胞では、FANCD2のユビキチン化が誘導され、DNA修復系が活性化されることを明らかにした。実際、JAK2変異体発現細胞は多くの抗がん剤に対し耐性を示すことが知られているが、FANCCをノックダウンするとCDDP (シスプラチン) やMMC (マイトマイシン) などのDNA架橋剤に対して感受性が亢進することが明らかになった。したがって、MPNで見られる抗がん剤耐性には、JAK2変異体によるFANCファミリーの発現誘導や活性化が関与していることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の計画として、①定量的リン酸化プロテオーム解析を行い、JAK2変異体の下流で特異的にリン酸化される分子を同定することおよび②リン酸化分子の発現ベクターおよび特異的なshRNAの発現ベクターを作成し、それらを発現した細胞株を作成することを予定していた。現在までに、FANCファミリーに関しては、その機能まで明らかにすることができた。また、リン酸化されることが明らかになったHMGAは、野生型だけでなく、非リン酸化型変異体の過剰発現細胞を作成することに成功している。また、現在、STAT5の非リン酸化型変異体に関しては、発現ベクターの構築を行っており、概ね計画通りに、研究が遂行できていると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、定量的リン酸化プロテオーム解析により、野生型JAK2に比べて、JAK2変異体の下流で特異的にリン酸化された分子である核タンパク質HMGAや転写因子STAT5に着目し、その生理機能やリン酸化誘導機構について解析を行う。現在までに、JAK2変異体発現細胞において、HMGAは、転写因子c-Mycを介して発現が誘導されることを見出しており、JAK2変異体のシグナル経路では遺伝子の発現誘導とタンパク質の翻訳後修飾が複雑に機能している可能性が高いと考えられた。JAK2変異体発現細胞の増殖能、腫瘍形成能、抗がん剤耐性能に及ぼすHMGAのノックダウンおよび非リン酸化型HMGA変異体の発現の影響を検討していく予定である。また、STAT5は、JAK2変異体による増殖誘導に重要な役割を果たすことが明らかになっている転写因子であるが、今回、JAK2変異体発現細胞において、128番目のセリン残基 (S128) がリン酸化されることを見出している。S128は新規のリン酸化部位であり、STAT5の4量体形成に重要なドメインに位置する。最近、STAT5は、通常は2量体を形成するが、がん細胞では4量体を形成し、発現遺伝子群が異なることが報告されている。現在、STAT5の非リン酸化型変異体やリン酸化模倣変異体を作成しており、今後、STAT5欠損細胞を用いて、細胞増殖能や遺伝子発現誘導能におけるS128のリン酸化の役割を検討していくことを計画している。
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