研究課題/領域番号 |
25460075
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研究機関 | 武蔵野大学 |
研究代表者 |
土方 貴雄 武蔵野大学, 薬学研究所, 教授 (70189786)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | マイクロRNA / SV40ウイルス / T抗原 / VP1 |
研究実績の概要 |
宿主細胞の自然免疫応答に対するSV40ウイルスのマイクロRNA-S1の役割について明らかにすることが本申請研究の目的であるが、今年度は少し視点を変えて、マイクロRNA-S1は宿主細胞に自然免疫応答を起こさせないあるいは応答反応を減少させる役割を果たしているという観点から研究を行った。具体的には、宿主細胞に自然免疫応答反応を誘導するであろうSV40ウイルスタンパク質のT抗原やVP1の産生をマイクロRNA-S1が抑制するか否かについて解析をおこなった。その結果、マイクロRNA-S1はT抗原の産生は抑制するが、VP1産生は抑制しないということが明らかになった。T抗原はVP1のプロモーター制御領域に結合しVP1の転写を促進することが知られているが、マイクロRNA-S1によって減少したT抗原をもつ細胞のVP1発現とマイクロRNA-S1をもたず前者より多いT抗原をもつ細胞のVP1発現とタンパク質レベルにおいて比較したところ有意な差は認められなかった。 成果の意義や重要性として2つの点があげられる。一つは、SV40ウイルスはマイクロRNA-S1を介してT抗原の発現を自己制御して宿主細胞の免疫応答を抑えているのではないかということ。もう一つは、臨床的により重要な意義をもつと考える。SV40のT抗原は細胞を癌化する癌化因子と考えられているが、今年度の成果として外から導入したマイクロRNA-S1がT抗原の発現を著しく抑制することを明らかにした。この結果はSV40ウイルスによる癌に対してマイクロRNA-S1が治療薬として使える可能性を示唆するものである。さらにこれは他のマイクロRNAをもつDNAウイルスによる癌化に対しても応用できると考える。たとえば、EBVウイルスによるバーキットリンパ腫の治療としてEBVウイルスのマイクロRNAを使うことなどがあげられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
交付申請書に記載した研究目的の概要の部分に沿った研究としてはおおむね順調に進んでいると言えるが、申請書の研究期間内に何をどこまで明らかにするかについて記載した具体的な項目の点からは離れてしまっている。この点を考慮し選択区分として「(3)やや遅れている」を選んだ。 理由としては、研究対象として最初に選択した細胞がHEK293細胞であったことにより、自然免疫応答反応が思ったようにはっきりとした結果として得られなかったことが主な理由である。申請時に計画した具体的な項目を実際に調べてみると、TRAF6-IRF7やNFκBの経路はT抗原により活性化されず、さらにマイクロRNA-S1によりインターフェロンやサイトカインの産生にも影響がみられなかった。しかしながら、サイトカインや免疫応答に対する影響が全く認められなかったわけではなく、マイクロRNA-S1はIRF4やIL-17Fに対して弱い抑制効果があることは明らかになった。しかし、これらのIRF4やIL-17FがどのようにHEK293細胞の自然免疫応答に関与しているかについての実験は進めていない。それよりもむしろ自然免疫応答が得られやすい細胞に対象を替えた方が当初の目的を明らかにできると考え、現在細胞を替えて実験を開始したところである。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究成果はまとめて論文発表する予定とし、現在論文を執筆中である。 今後の研究については、上皮細胞系のHEK293細胞を、まず線維芽細胞系の3T3細胞、次にマウスの初代培養線維芽細胞に変更して再度当初の実験計画を遂行する予定である。実際、T抗原、マイクロRNA-S1、マイクロRNA-S1を発現しないT抗原をインフェクションした3T3細胞を作成し、現在それぞれ導入した遺伝子の発現をチェックしている段階である。具体的には、これらのインフェクションした細胞群を用いて、1)T抗原によってTRAF6-IRF7あるいはNFκBの経路が活性化されるのか。さらにI型インターフェロンや炎症性サイトカインの産生分泌が起こるのか。2)マイクロRNA-S1によって、TRAF6、IRF7やNFκBの発現が抑制され、インターフェロンや炎症性サイトカインの発現や分泌が抑制されるかなどを中心に調べていく予定である。 上記の細胞でも自然免疫応答がはっきりと得られないようならば、さらにマクロファージ系の細胞に変更して再度実験を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画で予想した結果が得られなかったため、HEK293細胞から線維芽系細胞の3T3細胞に変更した。この際、T抗原やマイクロRNA-S1をインフェクションした3T3細胞株を樹立するのに時間がかかったので、その間免疫応答に関する実験が行えなかったのでその分の実験経費が浮いたため次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
当初の計画では次年度3年目は論文をまとめることや学会発表のための経費が中心であったので、実験経費としてはあまり多くの金額を申請していない。次年度申請経費は、予定通り現在準備している論文の作成にかかる経費(校閲や投稿費用)とリバイズの時に生じる追加実験の経費として使うつもりである。繰り越した額については、予定していた免疫応答に関する実験を今回作成した3T3細胞株を用いて実験をする予定であるので、そのための経費にあてるつもりである。
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