研究課題
Src型チロシンキナーゼによる細胞分裂制御機構の解明を目指し,リン酸化プロテオミクスを行なった。細胞周期を同調する際には,まず細胞をCdk1阻害剤RO-3306により処理してG2期に停止させ,リリースした後,プロテアソーム阻害剤であるMG132により再び分裂期中期に停止させた。その後,細胞分裂を再開させて分裂後期に同調する方法を昨年度までは用いる予定であった。細胞が培養ディッシュに接着した状態では,効率よく細胞分裂後期に同調できていたが,同調効率をあげるために浮遊化させると,逆に同調効率が低下した。そこで,我々が確立したチミジン,ノコダゾール,ブレビスタチンを用いる同調方法(Eur J Cell Biol 91:413-419 (2012)) により細胞分裂後期に同調し,リン酸化プロテオミクス解析を行なった。その結果,既に知られている細胞分裂後期におけるリン酸化が観察され,同調方法とプロテオミクス解析が妥当であることが示された。この解析によって,これまでに知られていない多数のタンパク質のSer/Thr/Tyr 残基のリン酸化を見出すことができた。また,Src活性亢進により細胞分裂異常が引き起されるが,そのメカニズム解明を目指しプロテオミクス解析をおこなった。その結果,基質であることが分かった分子に関して,細胞分裂における役割,リン酸化の生理的意義を解析中である。Src活性異常亢進のモデルとしてv-Srcを誘導発現すると,大腸がん細胞株においてchromosome bridgeを形成させることを既に報告している。chromosome bridge は染色体異常の原因であり,v-Srcによる細胞がん化,がん悪性化の原因の一つであることが示唆される。現在は,そのメカニズムについて解析中である。
2: おおむね順調に進展している
Src型チロシンキナーゼによる細胞分裂制御機構を解明するために,平成25年度はプロテオミクス解析のための細胞周期同調方法の条件検討をおこなった。平成26年度,プロテオミクス解析に適合させた方法に修正しようとしたが同調効率が落ちてしまったため,別の同調方法を検討し,同調させることに成功した。この方法により細胞周期を同調し,プロテオミクス解析を行い,未知のタンパク質リン酸化を見出すことができた。この中から新規の細胞分裂制御機構を見出すため,遺伝子を入手して発現系の構築を開始した。また,Src活性亢進による細胞分裂異常については,昨年度,プロテオミクス解析をおこない,多数のv-Src基質を発見した。遺伝子を入手して発現系を構築し,細胞分裂における局在変化などの解析を行なっている。さらに,v-Src発現により誘導されるchromosome bridge形成についても,そのメカニズムの解明に近づいている。以上のことから,平成26年度の達成度は概ね順調といえる。
リン酸化プロテオミクスにより見出したSrc基質の遺伝子を細胞に導入して発現させ,免疫沈降した後抗チロシンリン酸化抗体を用いて細胞内でチロシンリン酸化されるのか調べる。また,免疫蛍光染色により細胞分裂期における細胞内局在を解析する。リン酸化される場合,そのアミノ酸残基が分かっているので,その部位に変異を導入して培養細胞に遺伝子導入し,リン酸化部位であることを確認するとともに,細胞内局在の変化の有無を観察する。細胞分裂前中期および中期,さらには細胞分裂後期における特異的にリン酸化されるタンパク質を見出したので,これらの遺伝子を細胞に導入し,細胞分裂期における細胞内局在を観察する。また,リン酸化部位に変異を導入し,細胞内局在の変化,細胞分裂進行にあたえる影響の有無を調べる。Src活性異常亢進のモデルとしてv-Src誘導発現系を用いているが,細胞分裂異常の結果,染色体異常の蓄積を介して悪性化した癌細胞の形質を獲得するのかを調べていく。
必要試薬は購入済みであったため繰り越した。
2015年度に抗体などの試薬購入にあてる。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (5件) 備考 (1件)
J Biol Chem
巻: 289 ページ: 12313-12329
10.1074/jbc.M113.533752
巻: 289 ページ: 26327-26343
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J. Cell. Biochem.
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http://labo.kyoto-phu.ac.jp/seika/saito/homu.html