研究概要 |
細胞表面や細胞外マトリクスに存在する硫酸化糖鎖が, 受容体を介して細胞内にシグナルを入力し, 細胞機能の制御に働く場合がある. この機能は, 硫酸化糖鎖の量・糖鎖長・硫酸化構造によって調節されるため, 硫酸化糖鎖の合成異常は細胞機能に影響を与え, 疾患の原因となり得る. 硫酸化糖鎖の合成異常を起こした遺伝子欠損マウスを解析した結果, 炎症性疾患の病態が重篤に現れ, この現象がマクロファージの過剰な応答に起因する可能性が示唆された. 本研究では, 硫酸化糖鎖の変化が, Toll-like受容体およびイオンチャネル型プリン(P2X)受容体からインフラマソームの活性化を経てサイトカインの産生を起こすマクロファージの炎症シグナル経路に与える影響を検討し, これに関連する“疾患糖鎖”を糖鎖構造・生合成の面から明らかにすることを目的としている. 平成25年度は, 四塩化炭素で誘導した急性肝炎における硫酸化糖鎖・プロテオグリカンの変化を解析し, 硫酸化糖鎖の合成異常が急性肝炎の病態にどのような影響を与えるかについて調べた. また, マクロファージに入力される炎症シグナルが硫酸化糖鎖の合成異常で影響を受けること, および Toll-like 受容体の活性化に関わる硫酸化糖鎖の構造的特徴を明らかにした. この結果は, 自然免疫の恒常性を乱す硫酸化糖鎖の構造上の特徴が明らかになったことを意味し, 炎症を基盤とした疾患の発症に関わる「疾患関連糖鎖」の実体を解明することができる可能性を示している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)四塩化炭素急性肝炎モデルを野生型マウスと硫酸化糖鎖の合成異常を起こした遺伝子欠損マウスに適応することで, 硫酸化糖鎖の合成異常が炎症の重篤度や治癒過程に影響を与えることを示した. この成果を平成25年度の糖質学会で発表するとともに, 国際雑誌 Biochemical Journal で公表した. また, 同雑誌に受理された論文は Disease の Spotlight で紹介された. さらに, 研究成果を Matrix Biology に総説として発表した. これらの成果をもって, 計画は順調に進行していると判断した. 2)マクロファージに入力される炎症シグナルを測定する実験系を確立し, 炎症を惹起する可能性のある硫酸化糖鎖を見いだすことに成功したため, 研究計画はおおむね順調に進行していると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
1) 平成25年度に見いだした硫酸糖鎖が, 炎症シグナル経路の活性化に必要かつ十分であるかどうかについて検討する. また, 当該硫酸化糖鎖がシグナル経路を活性化させるだけでなく, 病態を変化させるほどの大きな影響を与えているかどうかについても検討する. 2) 硫酸化糖鎖による炎症シグナルの入力を阻害する化合物のスクリーニングを行う。具体的には, 炎症シグナルを誘導する硫酸化糖鎖が結合しているキャリアタンパク質を同定し, 硫酸化糖鎖が結合しないように細工をしたキャリアタンパク質が阻害剤として使用できるかについて検討する. また, Toll-like 受容体から入力される炎症シグナルを測定するレポーターアッセイの系を用いて, 硫酸化糖鎖による炎症シグナルを抑制する化合物をスクリーニングする。
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