研究課題/領域番号 |
25460086
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
熊谷 圭悟 国立感染症研究所, 細胞化学部, 主任研究員 (40443105)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 脂質輸送 / セラミド / スフィンゴミエリン / リン酸化 / FFATモチーフ / メンブレンコンタクトサイト / クラミジア |
研究実績の概要 |
平成26年度に行った小規模siRNAスクリーニングでは、発現抑制することによってCERTの315番目のセリン(CERT S315)のリン酸化状態に変化をもたらすキナーゼを2種類同定した。我々はそのうちの1つ(正式名称は別にあるが、ここではkinase Xと仮称する)に興味を抱き、解析を進めた。 平成27年度は、まず結果の再現性を確認した。Kinase Xの発現抑制によって、CERT S315のリン酸化状態がわずかに高リン酸化状態にシフトすることが再現された。そのため、Kinase XはCERT S315のリン酸化に直接関与しているのではなく、二次的・三次的な影響を介して変化をもたらしていると考えられた。文献によれば、Kinase Xのノックダウンによって細胞にある種のストレスが加わることが予想された。そこで当該ストレスを細胞に加えたところ、CERT S315のリン酸化が大きく亢進した。我々はこれまでに、CERT S315のリン酸化状態を大きく変化させるほぼ唯一の条件として、スフィンゴ脂質生合成の阻害剤で処理するという条件を見出していたが、そのような脂質代謝に大きな変動をもたらす条件がvivoで発生するとは考え難く、リン酸化の意義を図りかねていた。一方、今回見出した条件はvivoでも起こり得るものであり、CERT S315のリン酸化制御が担う本来の意義に迫るための手がかりとなるかもしれない。 また、過去に我々は数種類のキナーゼ阻害剤を用いて、CERT S315のリン酸化状態について検討した結果を得ている。各種キナーゼ阻害剤のスペクトル情報と当該ストレスに応答するキナーゼという条件を満たすキナーゼの数はかなり限定されており、CERT S315のリン酸化を担うキナーゼ、並びに、そこに至るpathwayの解明まであと一歩という状況に至っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の実験計画では、全てのキナーゼを対象にしてsiRNAを行う予定であった。しかし、その後に発表された文献において、発現抑制することによりスフィンゴミエリン量を低下させるキナーゼが12種類報告された。CERT S315のリン酸化はスフィンゴミエリン生合成を促進することから、これらのキナーゼの中にCERT S315のリン酸化を担うキナーゼが存在すると予想し、平成26年度中に小規模siRNAスクリーニングを行った。その結果、CERT S315のリン酸化状態に変動をもたらすキナーゼを見出したものの、変動幅が大きくないことから、二次的、三次的な影響による変動が強く疑われた。平成27年度中には、CERT S315のリン酸化状態に変動をもたらしたキナーゼのうちの一つ(kinase X)に着目し、そのキナーゼの発現抑制が細胞に与える影響ついて考察した。考察の結果、ある種のストレスが加わっていることが予想されたので、当該ストレス条件下でのCERT S315のリン酸化を調べたところ、大きな変動が起きていることが確認された。当初の計画とはやや異なるアプローチとなったものの、ストレス応答性の発見を橋頭堡として解析を進め、現在、キナーゼの同定に向けて着々と研究を進めている。一方で、当初計画では最終年度に論文化に向けてCERTとキナーゼの関連性等の解析を行う予定であったことを勘案すると、現在の進捗状況はやや遅れていると判断せざるを得ない
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今後の研究の推進方策 |
CERT S315がある種のストレスに応答することから、まず確認しておくべき点がある。各種ストレスに応答するキナーゼとして、p38やJNKといったMAPキナーゼがよく知られているが、CERT S315の周辺配列は、これらのキナーゼによる認識配列の特徴を僅かに有している。典型的な配列からは逸脱しており、これまであまり想定してこなかったが、現在のような状況下ではストレス応答性MAPキナーゼがCERT S315のリン酸化に関与するか検証する必要がある。 次に、現在数種類程度にまで絞り込んでいる CERT S315のリン酸化に関わるキナーゼについて、off-target効果の可能性について検証する。即ち、複数のsiRNAターゲットを用いて再現性を確認するとともに、cDNAを用いてノックダウンの表現系が回復するか否か検討する。これらのキナーゼのうち一つでも一連の検証実験をパスしたならば、そのキナーゼがCERTの活性やスフィンゴミエリン生合成に与える影響等について解析を進める。一方、これらのキナーゼの全てがoff-target効果によってCERT S315のリン酸化状態を変化させていた場合、計画を巻き戻さなければならない。しかし、当初計画していた全キナーゼを対象にした大規模スクリーニングを行う事は考えていない。計画当初のように何も情報がない場合には大規模スクリーニングもあり得るが、CERT S315のリン酸化が特定の条件下で変動することが明らかになったので、そこを手がかりに進展を図りたい。即ち、当該ストレス応答のシグナル伝達についてもう一度慎重に考察し、演繹的に候補キナーゼを探し出してくる。残された期間で全て行うのは難しいかもしれないが、CERT S315のリン酸化を担うキナーゼの増減がスフィンゴミエリン生合成やCERTの局在に与える変化についても明らかにする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度に計画の一部変更を行ったために、次年度使用額が1,250,276円発生していた。平成27年度はそれまでに得られたデータを元に様々な可能性を考え、それらについて検証実験を行い、次年度使用額は492, 787円まで縮小した。平成27年度の次年度使用額の中には、年度末納品等にかかる支払いが平成28年4月1日以降となった分が含まれている。当該支出分については次年度の実支出額に計上予定。
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次年度使用額の使用計画 |
やや遅れがちな進捗状況を好転させるために各種実験が必要であり、平成27年度の次年度使用額の多くは、それらの実験に使用する物品費として支出する予定である。具体的には、プライマー合成、siRNA、その他各種消耗品類の購入に充てる。それ以外の部分については、概ね当初計画の通りである。各種試薬・消耗品などの購入に充てる物品費、成果発表のための旅費、ならびに、論文を発表するための英文校閲費や論文投稿費などを支出する予定である。各項目の支出額についても、現段階では大きな変更はない予定である。
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