研究課題/領域番号 |
25460087
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
武富 芳隆 公益財団法人東京都医学総合研究所, 生体分子先端研究分野, 主席研究員 (40365804)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | アレルギー / 動脈硬化 / 癌 / リン脂質 / ホスホリパーゼA2 / 脂質メディエーター |
研究実績の概要 |
(1)即時型アレルギー:リゾリン脂質性脂質メディエーターであるリゾホスファチジン酸 (LPA) の受容体 (LPA1) 欠損マウスでは、マスト細胞の成熟が不全であることを素因として即時型アレルギーが改善した。局所微小環境において、マスト細胞は線維芽細胞に依存して成熟するが、LPAの動員 (LPA産生酵素であるATXの阻害) あるいは双方の細胞でのLPA1シグナリングを抑制すると、マスト細胞の成熟は不全を生じた。LPA-LPA1経路はマスト細胞の成熟を制御する新たな脂質経路であることが明らかとなった。 (2)複合型アレルギー:リン脂質代謝酵素であるⅢ型分泌性ホスホリパーゼA2 (sPLA2-Ⅲ) の欠損マウスでは皮膚バリア恒常性が乱れており、そのため皮膚炎が増悪することを見出した。sPLA2-Ⅲはケラチノサイトに発現しており、本欠損マウスから単離したケラチノサイトは増殖分化異常を呈した。sPLA2-Ⅲはケラチノサイトの適切な増殖分化を調節することによって、皮膚バリア恒常性の維持に重要な役割を果たすものと考えられた。 (3)動脈硬化:従来、sPLA2はLDLリン脂質の分解を通じて動脈硬化に促進的に働くことが想定されてきたが、これに該当する責任酵素としてsPLA2-Ⅲを同定した。sPLA2-Ⅲは動脈硬化巣の泡沫化マクロファージやマスト細胞、血管内皮細胞に発現していた。本酵素の欠損マウスでは高コレステロール食負荷による動脈硬化病変が改善し、これには骨髄系および非骨髄系細胞の双方に発現するsPLA2-Ⅲが関与していた。 (4)癌:sPLA2-Ⅲは大腸上皮細胞に発現しており、本欠損マウスでは化学発癌物質の投与による大腸癌の発症進展が改善することを見出した。また、ヒト大腸癌における本酵素の発現レベルと悪性度は有意に相関しており、sPLA2-Ⅲは大腸癌の促進に関わる新たなバイオマーカーとして有望であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、予備的知見に留まっていたsPLA2-Ⅲ欠損マウスの表現型が次第に明確化されてきた。アレルギーにおいては、これまでの自身のオリジナルの研究を更に発展させることにより、マスト細胞を制御する新たな脂質経路を発見した。更に、本知見を複雑な免疫応答が絡み合う複合型疾患へと展開し、sPLA2-Ⅲが皮膚バリア恒常性を制御するという新基軸を創成した。動脈硬化や癌においては研究の進展度合いがアレルギーと比較すると緩やかである印象があるものの、着実にデータは蓄積されている点で概ね順調であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、sPLA2-Ⅲの下流で動く脂質の同定を中心に研究を展開する。アレルギーにおいては研究をin vitro培養系へと還元する。マスト細胞から分泌されるsPLA2-ⅢがどのようにLPAを動員するのか、またケラチノサイトから分泌されるsPLA2-Ⅲはどのような脂質を動員するのかについて、リピドミクスを駆使して解析を進める。動脈硬化においては、細胞固有のsPLA2-Ⅲの機能を解明するとともに、LDLリン脂質の分解が直結する動脈硬化促進メカニズムの本質に迫る。癌については、癌の進展に関わるsPLA2-Ⅲの責任細胞の同定を引き続き行うとともに、腸管上皮細胞の機能や腸内環境に与えるsPLA2-Ⅲ欠損の影響を精査することにより、癌に直結するメカニズムを模索する。
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次年度使用額が生じた理由 |
最終年度は、脂質分析ならびに脂質経路を応用するための脂質や薬剤などを購入する資金を計上するするとともに、国際学会での発表のための旅費、ならびに論文投稿に向けての校正などにかかる費用を計上した。
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次年度使用額の使用計画 |
前年度までに、リン脂質代謝の最上流に位置するPLA2のノックアウトマウスの表現型を分子生物学的、免疫学的、解剖学的解析により行ってきた。本年度は前年度までに得られた知見を更に発展させ、これらの解析に加えて脂質生化学的手法を駆使することにより、PLA2を起点とした脂質の動員から受容にかけての道筋を明らかとする。詳細には、PLA2の下流で機能する脂質をリピドミクスなどを駆使して同定し、当該脂質を培養細胞に添加あるいは動物に投与することにより生体応答を制御する脂質マシナリーを解明する。本年度は脂質経路を応用するための脂質や抗体、アナログ・阻害剤、受容体作動薬・拮抗薬の購入に資金を投じる。前年度までとは異なり、国際学会での発表の機会を設けるとともに論文発表のために本助成金を使用する。
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備考 |
平成26年7月3日 第20回日本炎症・再生医学会奨励賞 平成26年4月15日 平成26年度文部科学大臣表彰若手科学者賞
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