研究課題/領域番号 |
25460089
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 愛知県がんセンター(研究所) |
研究代表者 |
笠原 広介 愛知県がんセンター(研究所), 発がん制御研究部, 研究員 (90455535)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 細胞分裂期 / 増殖生存シグナル / リン酸化 / Plk1キナーゼ / PI3キナーゼ / Aktキナーゼ / 14-3-3 |
研究概要 |
細胞分裂期(M期)の中核的キナーゼであるPlk1は、分裂期の進行に伴い、細胞内局在やキナーゼ活性を変化させることで、分裂期への進入、中心体の成熟・分離過程、染色体の整列・分配など多岐にわたる分裂期イベントを制御する。我々は、Plk1の新規リン酸化部位であるセリン99(Ser-99)を同定し、このリン酸化が増殖生存シグナルであるPIK-Akt経路の下流にあることを見出した。また、このリン酸化がPlk1とアダプタータンパク質14-3-3γの結合を引き起こすことも見出している。本研究では、このリン酸化の生理定義を明らかにするため、内在性Plk1のRNAi干渉法と外来性Plk1変異体の誘導発現を組み合わせることによってSer-99が分裂期進行に果たす役割を検討した。その結果、以下のことが明らかとなった。 1)セリン99をアラニンに置換した変異体(S99A)は、キナーゼ活性が著しく減衰していたが弱いキナーゼ活性を保持していた。一方、細胞内局在には影響はみられなかった。 2)S99Aを発現する細胞は、分裂期への進入や中心体の成熟・分離は正常に行われたが、染色体の整列・分配が障害された。 3)キナーゼ活性を完全に失った変異体(K82RもしくはT210A)を発現する細胞では、Plk1が制御する分裂期イベントの全てが障害された。 以上の結果より、分裂期への進入や中心体の成熟・分離はPlk1の活性が部分的にあれば達成され得るが、正常に染色体が整列・分配されるためには、Plk1のセリン99がリン酸化されて完全に活性化する必要があることが明らかとなった。現在、抗腫瘍薬としてPlk1阻害剤が期待されているが、我々の結果は阻害剤によってPlk1活性を完全に抑制しなくとも十分な抗腫瘍効果をもたらすことを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題は、増殖生存シグナルと細胞分裂期(M期)シグナルのクロストークを分子レベルで解明し、それが癌の悪性化に果たす役割を明らかとすることを目的としている。現在までに、PI3K-Akt経路によるPlk1キナーゼの制御メカニズムの大部分を明らかにすることに成功し、その成果を原著論文として国際的な科学誌「Nature Communications」に発表している。すなわちシグナルのクロストークを分子レベルで解明する点については概ね達成できたといえる。以上の理由より(1)当初の計画以上に進展していると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
現在までにPI3K-Akt経路によるPlk1キナーゼの制御メカニズムの大部分を培養細胞を用いた実験系で明らかにしてきたが、今後より精密な分子メカニズムを解明するため試験管内再構成系(in vitro実験系)での検討も進める。また、これまでPlk1を中心に増殖生存シグナルと細胞分裂シグナルのクロストークにアプローチしてきたが、PI3K-Akt経路や14-3-3γからもアプローチすることでシグナルの全容を探って行く予定で合ある。
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次年度の研究費の使用計画 |
培養細胞を用いて分子メカニズムを解析が順調に進行したため、こちらの解析を優先してきた。一方、ペプチドを用いた阻害剤開発の研究が当初計画していたよりも遅れ気味である。そこで阻害剤開発のために使用予定であった試薬費(物品代)が低くなった。 計画が少し遅れているが、当初の予定通り、阻害剤開発のための試薬代(物品費)に当てる。
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