プロスタグランジンD2(PGD2)とプロスタグランジンE2(PGE2)は、五員環上の水酸基とカルボニル基の配置が逆となっている位置異性体である。そのため、それらプロスタノイドは、それぞれの内因性の受容体にクロストークすることが知られているが、その生理的な意義や役割については、ほとんど報告されていない。平成25年度に、1)ヒト結腸癌LS174T細胞に発現しているPGD2の受容体であるDP受容体に、PGE2も作用し、癌化関連分子であるDAF/CD55やムチン13のmRNA発現を誘導すること、2)新規DP受容体アンタゴニストAWT-489を見出したことを報告した(Arch Biochem Biophys (2014) 541:21)。また平成26年度には、受容体のリガンドによる反応性の違いに焦点を当て解析を試みた。その結果、3)DP受容体をPGE2で刺激するなどリガンドをクロスさせた場合、同じ受容体を同じリガンドで刺激したにもかかわらず、cAMP産生系でのEC50とβ-カテニン活性化系でのEC50が異なる事が明らかとなった。また、世界各地の人々の遺伝子データベース解析より、4)EP2受容体には変異したアミノ酸がDP受容体と比べて、有意に少ない事が明らかとなった(FEBS Lett. (2015) 589: 766)。平成27年度には、上記3の解析をさらに進めた結果、5)PGD2とPGE2は、それぞれEP2受容体、あるいはDP受容体に作用した場合、パーシャル・アゴニストとして作用するのではなく、バイアス・アゴニストとして、特定の情報伝達系を偏重して活性化することを明らかとした。また、それぞれのリガンドと受容体の結合様式をin silico解析したところ、6)受容体とリガンドとの水素結合の形成様式の違いが、受容体のコンフォメーションの安定性を変えるのがバイアス性に繋がること、さらに7)受容体のコンフォメーションは少なくとの2段階のステップがあり、それぞれのステップ毎に異なる情報伝達系が活性化される可能性を見出した。
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