研究課題
基盤研究(C)
研究代表者は、カルニチン/有機カチオントランスポーターOCTN1が神経系前駆細胞や神経細胞に機能的に発現しており、神経細胞の分化や成熟に関与することを明らかとした。しかしながら、OCTN1による神経細胞機能調節メカニズムやOCTN1の病態生理学的意義は明らかとなっていない。そこで本研究では、octn1遺伝子欠損(octn1-/-)マウスやoctn1遺伝子過剰発現細胞、OCTN1に特異性の高い生体内基質ergothioneine(ERGO)を用いて、それらの解明を試みた。先ず、octn1-/-マウス胎児脳より神経系前駆細胞および神経細胞の培養系を確立した。次に、octn1遺伝子過剰発現細胞への[3H]ERGOの取り込みに抗うつ薬が及ぼす影響を検討したところ、OCTN1を介した[3H]ERGOの細胞内への取り込みに及ぼす阻害効果は、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)であるparoxetine、 fluoxetineが最も強く、続いて三環系抗うつ薬desipramine、imipramine、SSRIのfluvoxamineの順であった。したがって、OCTN1は種々の抗うつ薬に親和性を有し、その基質輸送能が抗うつ薬によって阻害される可能性が示された。次に、ERGOを混合した餌をマウスに2週間投与後、抗うつ薬の評価系である強制水泳試験および尾懸垂試験を行い、マウスの無動時間をうつ症状の指標としてERGOの抗うつ効果を評価した。その結果、両試験におけるマウスの無動時間は、コントロール群に比べERGO投与群で有意に短縮された。したがって、ERGOはOCTN1を介して脳へと送達され、抗うつ作用を有する可能性が示された。今後はoctn1-/-マウス由来の培養神経系前駆細胞や神経細胞を用いたOCTN1による神経細胞機能調節メカニズムの解明や、in vivoにおいても抗うつ薬がOCTN1の基質動態に影響を及ぼす可能性、OCTN1基質ERGOによる抗うつ作用メカニズムについて検討し、OCTN1の病態生理学的意義の解明を試みる。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、octn1-/-マウスやoctn1遺伝子過剰発現細胞、OCTN1に特異性の高い生体内基質ERGOを用いて、OCTN1による神経細胞機能調節メカニズムやOCTN1の病態生理学的意義を明らかにすることを目的として行っている。OCTN1による神経細胞機能調節メカニズムの解明については、本年度にoctn1-/-マウス胎児脳より神経系前駆細胞および神経細胞の培養系が確立できたので、予定よりやや遅れ気味ではあるものの、次年度以降速やかに細胞内メカニズム解析に着手できる。抗うつ薬とOCTN1基質輸送能の関係を明らかとすることによりOCTN1の病態生理学的意義を明らかにしようとする試みは、おおむね予定通りの進行である。また、OCTN1の生体内基質ERGOによる抗うつ効果の検討によりOCTN1の病態生理学的意義を明らかにしようとする試みは、予定よりも早く成果を上げることができた。以上より、本研究計画の現在までの達成度は「おおむね順調に進展している。」と考えられる。
【OCTN1と関連する神経細胞内因子の探索】野生型マウスとoctn1-/-マウスより単離した培養3日目の神経系前駆細胞あるいは培養1日目の神経細胞において、遺伝子発現変動解析を行う。培養3日目の神経系前駆細胞において両マウス間で発現変動の見られた遺伝子を「神経分化関連候補因子」、培養1日目の神経細胞において発現変動の見られたものを「神経成熟関連候補因子」とする。【OCTN1が抗うつ薬の体内動態に及ぼす影響の検討】OCTN1と相互作用する可能性が示された抗うつ薬をoctn1遺伝子過剰発現細胞と空ベクターを導入した対照細胞に曝露した後、細胞中への取り込み量をHPLCあるいはLC/MS/MSによって定量し、OCTN1の基質となる可能性について検討する。In vitro試験において基質となる可能性が示された抗うつ薬に関しては、野生型マウスとoctn1-/-マウスに脳室内および静脈内投与した後、血中および臓器中濃度推移を比較することにより、in vivoでもOCTN1の基質となることを示す。【OCTN1のうつ病発症への関与の検討】野生型マウスおよびoctn1-/-マウスにおいて強制水泳試験および尾懸垂試験を行い、両マウス間で無動時間に差が見られるかを検討する。また、試験後のマウスから脳を摘出し、【OCTN1と関連する神経細胞内因子の探索】において変化の見られた因子の発現変動について定量PCR法、Western blot法および免疫染色法による解析を行い、OCTN1のうつ病発症への関与について検討する。【OCTN1基質によるうつ症状改善効果作用機序の検討】高ERGO含有餌の投与により血中ERGO濃度が定常となったマウスおよび通常餌を同期間与えたマウスにおいて【OCTN1のうつ病発症への関与の検討】と同様の解析を行い、OCTN1の良好な生体内基質であるERGOによるうつ症状改善効果の作用機序について検討する。
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http://www.p.kanazawa-u.ac.jp/~bunyaku/