研究課題/領域番号 |
25460092
|
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
中道 範隆 金沢大学, 薬学系, 准教授 (10401895)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 脳・神経 / 脳神経疾患 / 神経科学 / 薬理学 / 輸送担体 |
研究実績の概要 |
昨年度の研究成果により、カルニチン/有機カチオントランスポーターOCTN1は、SSRIや三環系抗うつ薬といった種々の抗うつ薬に親和性を有することを明らかとした。そこでOCTN1に対するKi値が臨床使用時の血中濃度に最も近かったimipramine(IMP)の抗うつ作用にOCTN1がどのような影響を及ぼすのかを解明する目的で、octn1遺伝子欠損(octn1-/-)マウスを用いた強制水泳試験を行った。その結果、野生型マウスと比較してoctn1-/-マウスでは、より低濃度でIMPがマウスの無動時間を短縮した。したがって、OCTN1は三環系抗うつ薬IMPの抗うつ作用発現を減弱させる可能性が示された。今後は、OCTN1の抗うつ作用に対する影響が、抗うつ薬の体内動態変動によるものかを解析する。また、昨年度にOCTN1の良好な基質であるergothioneine(ERGO)の経口摂取により、抗うつ作用が発揮される可能性を示した。そこでその作用機序を解明する目的で、ERGOを経口摂取させたマウスから脳切片を作製し、ERGOが神経新生に及ぼす影響を検討した。その結果、ERGOを2週間経口摂取することにより、海馬歯状回において幼若神経マーカーdoublecortin陽性細胞数が増加した。したがって、ERGOは海馬歯状回における神経分化を促進することにより、抗うつ作用を発揮する可能性が示された。また、OCTN1を介したERGOによる神経分化促進作用の細胞内メカニズムを解明する目的で、神経系前駆細胞をERGO添加メディウム中で培養し、種々の遺伝子発現変動解析を行った結果、ERGOは数種の神経栄養因子mRNA発現を増加させることを見出した。今後はOCTN1基質ERGOがどのような細胞内経路を介して神経分化を促進するのかについて検討する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、octn1-/-マウスやoctn1遺伝子過剰発現細胞、OCTN1に特異性の高い生体内基質ERGOを用いて、OCTN1による神経細胞機能調節メカニズムやOCTN1の病態生理学的意義を明らかにすることを目的として行っている。OCTN1による神経細胞機能調節メカニズムの解明については、本年度にOCTN1基質ERGOが神経栄養因子の誘導を伴い神経分化を促進する可能性を見出したので、次年度はより詳細な細胞内シグナル伝達経路の解析に着手する。抗うつ薬とOCTN1の関係を明らかとすることによりOCTN1の病態生理学的意義を明らかにしようとする試みについては、OCTN1が三環系抗うつ薬IMPの抗うつ作用を減弱させる可能性を示したことから、次年度はOCTN1が抗うつ薬の体内動態変動に及ぼす影響について解析を行う。また、OCTN1の生体内基質ERGOが海馬歯状回における神経分化を促進することにより、抗うつ作用を発揮する可能性を見出したことは、OCTN1の病態生理学的意義の解明に大いに貢献するものである。以上より、OCTN1による神経細胞機能調節メカニズムの解明についてはやや遅れ気味ではあるものの次年度に成果を上げる見通しが付いており、OCTN1の病態生理学的意義の解明は予定よりも順調に進んでいることから、本研究計画の現在までの達成度は「おおむね順調に進展している。」と考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
【OCTN1による神経細胞分化制御メカニズム解析】マウス神経系前駆細胞において、OCTN1がERGOを細胞内に取り込むことにより、神経栄養因子のmRNA発現誘導を介して神経分化が促進される可能性を見出した。そこで次に、OCTN1を介したERGOの取り込みによって誘導される神経栄養因子を、Western blot法やELISA法によりタンパクレベルで検出する。さらに阻害剤を用いた下流シグナルの同定も行う。それら神経栄養因子や下流シグナルに特異的なsiRNAを作製し、P19における発現減少が神経細胞への分化に及ぼす影響を解析する。 【OCTN1と関連する神経細胞分化制御因子のin vivo解析】胎生15日齢、生後4週および8週齢の野生型マウスとoctn1-/-マウスより摘出した全脳を、小脳、橋・延髄、視床下部、線条体、中脳、海馬、大脳皮質の7部位に分画する。定量PCR法およびWestern blot法を用い、【OCTN1による神経細胞分化制御メカニズム解析】において変化の見られた神経栄養因子やその下流シグナルと神経細胞の分化・成熟マーカー発現量の相関性について検討する。また、脳凍結切片を作製し、免疫染色による局在性の変化についても評価する。 【OCTN1が抗うつ薬の体内動態に及ぼす影響の検討】OCTN1と相互作用する可能性が示された抗うつ薬をoctn1遺伝子過剰発現細胞と空ベクターを導入した対照細胞に曝露した後、細胞中への取り込み量をHPLCあるいはLC/MS/MSによって定量し、OCTN1の基質となる可能性について検討する。In vitro試験において基質となる可能性が示された抗うつ薬に関しては、野生型マウスとoctn1-/-マウスに脳室内および静脈内投与した後、血中および臓器中濃度推移を比較することにより、in vivoでもOCTN1の基質となることを示す。
|