研究課題
ニコチンはタバコの主成分であり、日々の行動・意思決定に関与する認知、注意、作業記憶、動機づけ、予測、衝動性などの心理的過程に影響する。それゆえ、依存症という副作用を持つ反面、精神症状を鎮静化する作用を併せ持つこと(ニコチンの二面性効果)から、創薬標的としてのニコチン受容体の有用性が指摘されている。本研究では、嗜好品(ニコチン)の意思決定への影響、創薬標的としてのニコチン受容体の意義について検討する。これにより、新しい観点から創薬標的としてのニコチン受容体の有用性を証明することで、精神疾患の治療戦略に挑戦する。平成25年度は、ニコチンを急性投与あるいは慢性投与したラットはコントロールラットと比較して、意思決定に大きな変化がないことを証明した。平成26年度は、ニコチン投与は覚せい剤誘発意思決定異常に対して緩解作用を示すことを証明した。最終年度はニコチンの緩解作用に関わる脳領域についてc-Fosマッピングにより検討した。その結果、ニコチンの慢性投与は有意でないものの、側坐核におけるc-Fos発現の増加を引き起こした。しかし、意思決定異常を示した覚せい剤依存ラットの側坐核、線条体、島皮質において、c-Fos発現の有意な増加が見られなかったことから、ニコチンの緩解作用に関わる標的脳領域を特定できなかった。この原因は、染色方法の違いと、行動の個体間のバラツキによるものと考えている。以上、研究期間全体をとおして、本行動タスクでは、ニコチン単独では意思決定に大きな影響を与えないこと、ニコチンが覚せい剤誘発意思決定異常を緩解させることを証明した。その作用機序は不明であるが、少なくとも、意思決定障害におけるニコチンおよびニコチン受容体の意義は証明できたと考えられる。
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PROCEEDINGS OF THE NATIONAL ACADEMY OF SCIENCES OF THE UNITED STATES OF AMERICA
巻: 112 ページ: E3930-3939
10.1073/pnas.1418014112.