研究課題
パーキンソン病において、中脳黒質―線条体系ドパミン神経投射の再生は将来有望な治療戦略である。ドパミンニューロンが線条体ニューロンを神経支配するメカニズムについて、これまでに我々は、細胞接着分子であるインテグリンα5β1が重要な役割を果たすことを明らかにした。本研究では、インテグリンα5β1を介した線条体神経支配メカニズムの解明およびインテグリン過剰発現による線条体神経支配促進作用を検証する。前年度は、中脳細胞選択的にインテグリンα5をノックダウンすることによりドパミンニューロンによる線条体神経支配が低下することを報告した。本年度は線条体に発現するインテグリンα5が関与するか否かを検討するために、インテグリンα5 shRNAを線条体細胞選択的に導入した。線条体細胞のインテグリンα5をノックダウンしても線条体神経支配は抑制されないことを明らかにした。以上の結果より、ドパミンニューロンに発現するインテグリンα5が重要な役割を果たすことがより明確になった。そこで、線条体神経支配を促進することを目的に、インテグリンα5発現レンチウイルスベクターをマウスES (胚性幹)細胞に導入した。インテグリンα5発現ES細胞から分化したドパミンニューロンでは神経突起が有意に長いことを明らかにした。したがって、インテグリンα5をドパミンニューロンに過剰発現させると線条体神経支配が促進することが示唆される。また、インテグリンα5β1のリガンドとしてL1 CAMの関与を明らかにするため、L1タンパクのコーティング手法を工夫した。ポリエチレンイミンコーティングした培養皿にクロスリンカーとしてSMCCを用い、還元処理をしたFc抗体を結合させた。さらにL1-Fcタンパクを抗原抗体反応により結合させることで、L1タンパクの固定化を行った。L1のコーティングによりドパミン神経突起は伸長した。
2: おおむね順調に進展している
インテグリンα5ノックダウンによる線条体神経支配への影響に関しては順調に達成できた。インテグリンα5過剰発現ドパミン神経突起の伸長作用も確認でき、本年度の目標は達成した。しかし、インテグリンα5発現ES細胞からの神経分化効率が顕著に低下していたため、細胞移植に必要なだけのインテグリンα5発現ドパミンニューロンを作成するここは困難であると判断した。これは、未分化のES細胞でのインテグリンα5発現が原因であると考えられる。そこで、ドパミンニューロンへ分化後にインテグリンα5を発現するような戦略の変更が必要であることが分かった。現在、発現ベクターを変更し、再度遺伝子導入を行っており、現在は解決に向かっている。
カテコラミンニューロンのマーカー遺伝子であるチロシンヒドロキシラーゼのプロモーターの下流にインテグリンα5遺伝子を組み込んだベクターを作製した。このベクターをES細胞に導入し、ドパミンニューロンへの分化後に導入遺伝子が発現するか検証する。また、インテグリンα5を過剰発現した分化ドパミンニューロンにおいて突起伸長作用が見られるか検討する。さらに、セルソーターによるフィーダー細胞の除去や分化効率などを検討し、パーキンソン病モデル動物への細胞移植を行う。
インテグリンα5発現ES細胞からの神経分化効率が顕著に低下していたため、パーキンソン病モデル動物への細胞移植に必要なだけのインテグリンα5発現ドパミンニューロン数を確保することが困難であった。そのため、細胞移植を計画した実験が予定通りではなく、次年度に繰り越した。
本年度は、インテグリンα5発現ドパミンニューロンの作製および細胞移植実験を行う。これにより、前年度に繰り越した分も含めて効果的に使用する予定である。本年度も、研究経費として消耗品類(薬品、培養関係消耗品、実験用動物)の他、学会発表のための旅費を計上する。
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