研究課題/領域番号 |
25460099
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
吾郷 由希夫 大阪大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (50403027)
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研究分担者 |
松田 敏夫 大阪大学, 薬学研究科(研究院), 教授 (00107103)
田熊 一敞 大阪大学, 薬学研究科(研究院), 准教授 (90289025)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 長期隔離飼育マウス / エンカウンター刺激 / 個体間相互作用 / 大脳皮質前頭前野 / モノアミン / 精神疾患 |
研究概要 |
本年度は、発育期環境要因に基づく精神疾患モデルである長期隔離飼育マウスの異常行動発現のトリガーとなる神経化学的基盤を明らかにするため、新奇マウスとの遭遇といった精神的なストレス(個体間コミュニケーション)が与える影響を解析する新しい方法論を確立した(Ago et al., Neuropsychopharmacology 38: 1535-1547, 2013)。すなわち、物理的接触による二次的変化を避ける目的で、ケージ内に金網を設置した環境下で新奇マウス(intruderマウス)と遭遇させ、長期隔離飼育マウスの個体間相互作用(コミュニケーション)に対応する反応を解析した。その結果、intruderマウスとの遭遇時(エンカウンター刺激)において、長期隔離飼育マウスが群飼育マウスに比べ、ケージ内を激しく動き回り、過興奮反応を示すことを見出した。長期隔離飼育マウスの行動変化は新奇物体や睡眠下マウスの曝露では認められなかったことから、精神的なマウス間相互作用による行動を反映していると考えられた。さらに脳微小透析法による解析から、エンカウンター刺激により、長期隔離飼育マウスのみで、大脳皮質前頭前野の細胞外ドパミン、セロトニン(5-HT)遊離が増加することを見出した。隔離飼育マウスの攻撃行動を抑制することが知られているジアゼパム(GABAA受容体アゴニスト、抗不安薬)、オセモゾタン(5-HT1A受容体アゴニスト)そしてLY379268 (代謝型グルタミン酸2/3受容体アゴニスト)は、共通してエンカウンター刺激による隔離飼育マウスの大脳皮質5-HT遊離増加を抑制した。これらの成績は、精神的なストレスが精神疾患病態モデル動物に対して与える影響とその科学的根拠の一端をマウスレベルで示す世界で初めての報告であり、長期隔離飼育マウスの異常行動発現の神経基盤の解明に大きく貢献するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
我々は「エンカウンター刺激」というオリジナルな方法論を加えることで、長期隔離飼育マウスの新しい行動表現型を見出した。さらにこのエンカウンター刺激により本マウスの大脳皮質、側坐核、腹側被蓋野、縫線核といった脳部位での神経活動の増加、そして大脳皮質、側坐核でのモノアミン遊離増加を見出した。すなわち、精神的個体間相互作用に応答する神経化学的変化を捉えることに成功した。さらに当初予定以上の進捗から、これら行動学的変化、神経化学的変化に対する多くの中枢神経系作用薬の解析を実施することが出来、予想外にも隔離飼育マウスのエンカウンター刺激誘発の異常行動が抗うつ薬により改善されるという知見を得た。本モデルの更なる解析から、抗うつ作用を有する化合物の新たな評価系としての発展が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までの研究結果をもとに、長期隔離飼育マウスでのエンカウンター刺激誘発多動ならびに神経化学的変化の創薬的意義を明確にする。さらに、グルココルチコイド長期負荷マウス(難治性うつ病様モデル)やメタンフェタミン誘発行動感作マウス(覚醒剤精神病モデル)等、他の精神疾患モデルマウスでのエンカウンター刺激の影響を解析し、エンカウンター刺激の特性を明らかにするとともに、各モデル間の病態(異常行動)と密接に関連する神経化学的変化の差別化と創薬への応用について評価・考察する。
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