研究課題
基盤研究(C)
本研究課題は、シナプス病態を反映するPACAP欠損マウスにイメージングシステムを用いてスパインの動態や機能制御する機構に着目し、スパイン上でのPACAPシグナルやセロトニン受容体との相互作用の役割を解析し、精神疾患発症・病態の分子基盤の理解や新規創薬ターゲットとしての有用性を探ることを目的とする。25年度は、研究実施計画に基づき、主に以下の成果を得た。A) PACAP-/-マウスにおける 5HT-2 受容体亢進に関する分子メカニズム解析PACAPシグナル機能低下により5-HT2A機能が亢進し、精神神経機能異常を起こす可能性が想定されている。このことは、5-HT2A機能を抑制する内因性の精神機能調節機構にPACAPが関与している可能性を示す。そこで、Neuro2A細胞や初代培養海馬神経細胞を用いて、細胞膜表面上に存在するタンパク質のビオチン標識および単離を行い、ウエスタンブロット検出した。PACAP投与時における細胞膜表面の5-HT2A受容体の発現量の変動を解析した結果、PACAP投与30分後、PACAP特異的受容体であるPAC1受容体の細胞膜上の発現量低下が認められたのと共に、5-HT2A受容体の発現量の低下が認められた。また、5-HT1A受容体の変動は認められなかった。これらの結果は、PACAPが実際の神経細胞における内在的な5-HT2A受容体の機能調節に関わる可能性を示すものである。B) Halo-tag を用いた初代神経培養細胞におけるスパイン動態・シグナル伝達の解析現在、HEK293 細胞において確認されているPACAP 投与によるHalo-tag 5HT-2A、PAC1の細胞内局在化について、その機序としてPKCシグナルの関与と共に、β-arrestin 2 が関与する可能性を明らかにした。また、Halo-tag 5HT-2Aの初代神経培養細胞への導入も成功した。
2: おおむね順調に進展している
遺伝子導入が困難といわれている初代神経培養細胞へのHalotag 5HT-2A受容体の発現に成功した。導入効率は依然として低いものの、Halotagリガンドによる蛍光発現の確認、およびスパイン形成・成熟が認められる培養21日までの培養が可能になった。また、初代培養神経細胞を用いて、内在的な5HT-2A受容体の細胞膜上発現が実際にPACAPにより制御されうる可能性を見出した。これらの結果は、PACAPが実際に神経細胞内で、5-HT2A受容体の機能調節に関わる可能性を示しており、病態の分子基盤を理解するうえで、重要な成果であると考えられる。さらに、PACAP刺激による5HT-2A受容体の細胞内局在化には、PKCだけでなく、beta-arrestin2の関与が明らかになったため、今後、PACAPによる5HT-2A受容体の機能制御機構を詳細に明らかにする必要がある。しかし、次年度に向けて進めていたPACAP-Creトランスジェニックマウスの作製には、PACAP-Creプラスミドの作製に時間がかかったため作製できていない。以上のことより、25年度交付申請書に記載した研究計画は、おおむね順調に進展していると考えられる。
A) PACAP-/-マウスにおける 5HT-2 受容体亢進に関する分子メカニズム解析として、PACAP-/-マウス初代神経培養細胞を用いて、細胞膜表面上の5HT-2A受容体等のスパイン関連タンパク質の発現を詳細に検討する。B) Halo-tag や蛍光イメージング法を用いた初代神経培養細胞におけるスパイン動態・シグナル伝達の解析として、導入が可能になった初代神経培養細胞を用いて、Halotag 5HT-2A受容体の細胞内局在化の可視化を引き続き行っていく。また、halotagリガンドに新しくPH感受性リガンドが導入された。このPH感受性リガンドはPHの低い小胞内でのみ蛍光を発現するため、細胞内局在を観察するのに適している。そのため、樹状突起スパイン上での細胞内局在化については、このPHリガンドを用いて、検討を行っていく予定である。C) 薬剤投与や遺伝子発現抑制系を用いた神経細胞内におけるシグナル伝達系の解明として、5HT-2アゴニストや共同研究によりスクリーニングされたPAC1アロステリックモジュレーターなどを用いた検討を行う。PACAP刺激による5HT-2A受容体の細胞内局在化には、PKCだけでなく、β-arrestin2の関与が明らかになったため、催幻覚作用をもつ5HT-2A作動薬である DOIのようにβ-arrestin 2非依存的細胞内在化がGqなどの他のシグナルを介した幻覚作用などの副作用の誘発を引き起こす前に、PACAPシグナルによりβ-arrestin 2依存的細胞内在化を行うことで、幻覚作用などの副作用を軽減させる可能性の検討を行う。
次年度に向けて進めていたPACAP-Creプラスミド作製が当初の予定よりも時間がかかり、PACAP-Creマウス作製に至らなかったため。PACAP-Creプラスミドはすでに作製できており、培養細胞にて発現確認を行っている段階である。確認でき次第、PACAP-Creマウス作製を行っていく予定である。
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