低分子ストレスタンパク質(heat shock protein: HSP)の遺伝子変異(点変異、欠損変異など)は、筋原線維性ミオパシー(Myofibrillar myopathy: MFM)の原因であることが知られている。MFMは、細胞内に不溶性凝集体を形成する特徴を有し、細胞内不溶性凝集体の増大と共にアポトーシスと思われる細胞死が発生し、ミオパシーあるいは心筋症病態が進行する。また、病態の進行と共に細胞内のミトコンドリアにおけるアポトーシス抑制因子BCL-2が低下し、その一方でアポトーシス誘導因子BAXが増大する。そのため、不溶性凝集体によるミトコンドリアのBCL-2の低下、BAXの増大は心筋細胞にアポトーシスと考えられる細胞死を誘発させると考えられる。本研究では、MFM病態におけるアポトーシス抑制因子BCL-2およびアポトーシス誘導因子BAXの増減に関する詳細な分子機構を解析することにより、MFMの新規治療法の開発を目指した。 新生児ラット心筋細胞にMFMの原因となる低分子HSPB5120番目のアルギニン→グリシン (R120G) 点変異体を発現させると、BCL2関連athanogene 3 (BAG3)のタンパク質レベルが上昇した。この心筋BAG3の増大の生理的意義を検討するために、BAG3を特異的に阻害するsiRNAを作製し、BAG3をノックダウンした心筋細胞におけるHSPB5R120G過剰発現の影響を検討した。その結果、BAG3を選択的にノックダウンしたラット新生児心筋細胞では、HSPB5 R120G誘発アポトーシスが増大した。すなわち、BAG3は心筋保護作用を有し、HSPB5 R120Gによる心筋障害に対する代償機構で増大している可能性が考えられる。さらにBAG3をノックダウンしたときにはアポトーシス抑制因子であるBCL-2のミトコンドリア含量が減少していた。BAG3はBCL-2と直接結合することが知られているため、BAG3がBCL-2の調節因子としてアポトーシスの発生に深く関わっている可能性がある。
|