研究課題/領域番号 |
25460110
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 京都薬科大学 |
研究代表者 |
加藤 伸一 京都薬科大学, 薬学部, 教授 (90281500)
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研究分担者 |
岩田 和実 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (60305571)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | NOX1 / 腸管マクロファージ / 消化管炎症 / サイトカイン / 活性酸素 |
研究概要 |
腸管マクロファージに発現するNOX1の機能および消化管炎症の病態との関連を明らかにする目的で、平成25年度は主としてトリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)誘起大腸炎モデルおよび腹腔・固有粘膜層マクロファージを用いた検討を行い、以下のような結果を得た。 1) TNBS直腸内投与は重篤な大腸炎を誘起したが、その程度はWTマウスと比較してNOX1KOマウスではいずれも顕著に抑制された。また、TNBS投与は大腸粘膜ミエロペルオキシダーゼ活性、活性酸素(ROS)産生、iNOSおよび各種サイトカイン発現の増大を誘起したが、それらの増大もまたWTと比較してNOX1KOマウスでは著明に抑制された。これらの結果より、TNBS誘起大腸炎の病態にNOX1/ROSが関与していることが判明した。 2) TNBS誘起大腸炎の病態に関与するNOX1の局在を明らかにするため、大腸粘膜固有粘膜層から単核球を単離し、さらに1日培養後の付着細胞(固有粘膜層マクロファージ: LPM)を回収した。RT-PCRによりLPMにNOX2と同様にNOX1 mRNA発現を確認した。 3) マクロファージ発現するNOX1の役割を明らかにするため、腹腔マクロファージを採取し、LPS刺激による各種サイトカイン発現について比較検討した。LPS処置はTNF-αおよびIL-1 mRNAの著明な増大を誘起したが、その程度はWTマウスと比較してNOX1KOマウスでは著明に抑制された。以上の結果より、マクロファージにおいてNOX1は、LPS刺激によるサイトカイン発現の増大に関与していることが判明した。 本年度の検討では、TNBS誘起大腸炎の病態ならびにマクロファージにおける炎症応答のそれぞれにおけるNOX1の関与を明らかにしたが、TNBS大腸炎の病態と腸管マクロファージの炎症応答との関連性が不明確である。次年度はこれら両者の関連性について更なる検討を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、DSS誘起大腸炎およびインドメタシン誘起小腸傷害の検討を初年度に実施する予定であったが、実際これらのモデルでWTとNOX1KOマウスで比較したところ、明らかな差は認められなかった。そこで、次年度に予定していたTNBS誘起大腸炎モデルを用いた検討を前倒しで行ったところ、WTとNOX1KOマウスに極めて顕著な差が検出することができた。NOX1発現は小腸より大腸に多いことから、インドメタシン誘起小腸傷害に差が認められなかったのは発現量の差が関係している可能性がある。一方、同じ大腸の炎症であるDSSではTNBSと異なり、差が認められなかった理由については不明である。しかし、DSSとTNBS誘起大腸炎モデルにおける異なった結果は、今後NOX1の病態生理学的役割を明らかにするのに重要な基礎情報となる可能性がある。 若干の検討項目の前後はあったものの、初年度の検討において、消化管炎症の病態におけるNOX1の関与を明らかにした。さらに、従来NOX1は非食細胞型アイソザイムであり、マクロファージには発現していないとされていたが、本研究によりマクロファージにNOX1が発現していることを明確に証明し、さらに炎症応答の調節に関与していることを明らかにしたことは大きな成果であると言える。 以上より、初年度の検討はおおむね順調に進んでおり、次年度以降の検討を引き続き行っていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
TNBS誘起大腸炎における腸管マクロファージに発現するNOX1の関与を真に明らかにするためには、腸管マクロファージのNOX1を特異的に阻害する必要がある。申請者らは最近、骨髄移植を用いた骨髄キメラマウス作製系を確立したため、次年度の検討ではNOX1KOマウスの骨髄細胞を移植したキメラマウスを作製し、TNBS誘起大腸炎モデルを用いた検討を行うことを計画している。この手法により、病態に関与するNOX1が上皮細胞か骨髄細胞由来の細胞かを明らかにできるものと期待している。 また、マクロファージレベルでのNOX1の役割を解明するため、RAW264.7細胞におけるNOX1発現をsiRNAによりノックダウンして検討を行うことを計画している。しかし、RAW264.7はsiRNAが極めて入りにくく、次年度では主としてsiRNA実験系の条件設定を行う予定である。さらに、NOX1とWTマウスから固有粘膜層マクロファージを採取し、LPS刺激による各種サイトカイン発現について両マウスで比較検討を行う。これらの研究により、マクロファージレベルでのサイトカイン発現調節におけるNOX1/ROSの役割が明らかになるものと期待している。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初、次年度に予定していたTNBS誘起大腸炎モデルでの検討を初年度に前倒しで行ったため、初年度に予定していた細胞内シグナル伝達系に関する検討が次年度に変更となった。そのため、シグナル伝達系の検討に必要な各種シグナル関連分子の特異的抗体およびリン酸化抗体の購入が次年度になった。また、RAW264.7細胞のRNA干渉実験で、幾つかの条件検討を実施したが、まだノックダウン効率が悪く、引き続き検討が必要である。以上のような理由により、一部の助成金が次年度に持ち越しとなった。 次年度は、1) 骨髄キメラマウスを用いた検討、2) RAW264.7におけるRNA干渉実験、3) 腹腔または固有粘膜層マクロファージレベルでのNOX1の役割などを中心に検討し、結果によっては初年度に予定していた細胞内シグナル伝達系の関与について、各種シグナル関連分子に対する特異的抗体およびリン酸化抗体を用いて検討する予定である。
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