研究課題/領域番号 |
25460111
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研究機関 | 京都薬科大学 |
研究代表者 |
大矢 進 京都薬科大学, 薬学部, 教授 (70275147)
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研究分担者 |
藤井 正徳 京都薬科大学, 薬学部, 准教授 (40434667)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | pH感受性カリウムチャネル / 炎症性腸疾患 / Tリンパ球 / K2P5.1 / 選択的スプライシング / スプライシング阻害剤 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、免疫シナプス形成やがん悪性化におけるpH感受性カリウムチャネルK2P5.1の生理的、病態生理学的な重要性を明らかにすることである。また、K2P5.1の相互作用分子にも焦点を当て、T細胞またはがん細胞選択的な機能的複合体形成の分子機構を解明する。最終的に、免疫疾患の発症・進展やがん悪性化(浸潤・転移)を予防、治療するための新規創薬シーズの探索を行い、創薬開発を目指す。平成26年度の研究実施計画は、検討 1) K2P5.1 N末端欠損変異体K2P5.1BによるK2P5.1の膜移行・活性制御とその病態生理学的意義解明と検討 2) T細胞におけるK2P5.1-CD81相互作用と免疫シナプス形成における意義解明である。また、平成25年度に引き続き炎症性腸疾患モデルT細胞におけるK2P5.1の病態生理学的意義を明らかにするために、平成26年度はK2P5.1ノックアウトマウスにおいて炎症性腸疾患の病態が改善するのか悪化するのか検討した(検討 3))。検討 1) では、ヒト白血病細胞株K562にスプライシング阻害剤を処置したところ、K2P5.1B転写が増加し、K2P5.1の細胞膜移行の阻害を介してK2P5.1活性が有意に減弱することを見出した。K2P5.1 N末端欠損変異体K2P5.1Bの病態生理学的意義については引き続き検討中である。検討 2) では、CD81ノックアウトマウス由来T細胞を用いて抗原刺激によりT細胞を活性化した際のK2P5.1タンパク局在、活性の変化を検討した。検討 3) では、K2P5.1ノックアウトマウスを用いて炎症性大腸炎モデルを作成したところ、下痢、血便、大腸肥厚、大腸炎症の病態スコアが有意に抑制され、K2P5.1が炎症性T細胞の活性化に関与していることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
K2P5.1ノックアウトマウスを用いて、K2P5.1が炎症性T細胞における炎症性サイトカイン産生に関与していることを明らかにした。本研究成果は、選択的K2P5.1阻害剤開発や新規K2P5.1阻害機構解明の有用性を示唆する結果であり、学会発表では製薬会社の研究者から注目された。また、K2P5.1スプライシング変異体K2P5.1Bに関する検討では、CD4陽性T細胞、乳癌細胞株、白血病細胞株を用いて発現解析、機能解析を行ったが、病態発症との相関は認められなかった。一方、スプライシング阻害剤処理によりK2P5.1B転写が促進され、K2P5.1活性が抑制されることを見出した。イオンチャネル創薬においてスプライシング阻害という概念を導入したという点で新規性、独創性が高い研究内容を含んでおり、今後の研究の発展が期待される。K2P5.1発現・活性制御におけるCD81の効果については確定的な研究成果は得られなかったが、CD81ノックアウトマウスを用いた実験を実施中であり、慢性閉塞性肺疾患(COPD)モデル、炎症腸疾患モデルを作成し、T細胞におけるK2P5.1局在や活性を測定することを計画している。 癌領域での研究関しては、ヒト乳癌細胞株やヒト白血病細胞株にヒストン脱アセチル化酵素阻害剤を処置した際にK2P5.1をはじめ他のpH感受性カリウムチャネルK2P3.1、K2P9.1の転写活性が有意に促進することを明らかにした。アポトーシス耐性獲得にpH感受性カリウムチャネルが重要な役割を果たすかもしれない。 「K2P5.1-CD81相互作用の意義解明」のように「研究がやや遅れている」課題がある一方で、平成26年度から継続した研究課題「pH感受性カリウムチャネルK2P5.1の炎症性腸疾患における病態生理学的意義解明」は着実に研究成果に結びついている。全体としては「概ね順調に進展している。」と思われる。
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今後の研究の推進方策 |
T細胞におけるK2P5.1の転写促進の分子機構を解明するために、転写調節因子(NF-kappaB、hypoxia-inducing factor (HIF) 等)、エピジェネティック調節因子(HDAC、HAT)、各種サイトカインによるK2P5.1転写調節について検討する。また、K2P5.1スプライシング変異体の意義解明のため、各種癌細胞株やマウスから単離したT細胞におけるスプライシング阻害剤の効果を検討するとともに、K2P5.1Bのスプライシングを特異的に促進する低分子化合物を探索する。候補化合物が得られた場合には、K2P5.1活性、細胞増殖能、転移能、炎症性サイトカイン産生能への影響について検討する。K2P5.1とCD81の相互作用の意義解明についてもCD81ノックアウトマウスを用いた検討を計画しており、T細胞活性化時における免疫シナプスにおけるK2P5.1活性調節におけるCD81の役割を明らかにするとともに、慢性閉塞性肺疾患(COPD)モデル、炎症腸疾患モデルにおけるK2P5.1-CD81相互作用の病態的意義を細胞レベル、分子レベルで解明する。
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