研究課題
本研究では、血糖依存性に膵β細胞からのインスリン分泌を亢進する作用をもつ消化管ホルモン(GLP-1)の分解産物の産生亢進とグルカゴン血中濃度の抑制に強い相関性が認められること、およびこの作用がGLP-1分解酵素の阻害薬の共存により消失すること、等のこれまでに得た予備成績を踏まえ、糖尿病の発症およびその進展にGLP-1とその分解産物を介したインスリンおよびグルカゴン分泌が関与する可能性を検討した。単離精製マウス膵β細胞に諸種の濃度のGLP-1作動薬による刺激を行ったところ、GLP-1作動薬の低濃度(EC50 = 0.4 pM)刺激時において、protein kinase C (PKC)とprotein kinase A (PKA)の両系を介した活性化が生じることが確認された。一般に酵母を用いた組換えシステムでは、GLP-1受容体の刺激はGαq依存性機構を介したphospholipase C活性を誘発するが、膵臓β細胞ではGLP-1のpmol濃度刺激はPKCを直接活性化し、それに続いてPKA-非依存性かつPKC-ζ/ PKC依存性の細胞膜脱分極とそれに伴う活動電位の上昇によりインスリン分泌を刺激することが判明した。この効果は、PKCを活性化するPMAによって再現され、PKA阻害剤(例えばミリストイル化されたPKI)あるいはKATPチャネル阻害薬(例えばトルブタミド)の共存により完全に阻害された。この膜電位と電気的活動にけるPKC依存性の効果は、Na+透過性TRPV4チャネルの活性化によって生じていること、さらにリソソームのCa2+放出チャネルであるTPC1とTPC2を欠損したβ細胞では保持された。今回の成績は、GLP-1による治療に新たな機序の可能性が示され、生理的血中濃度のインクレチンは、β細胞に直接作用することによりインスリン分泌を刺激するのに十分であることが判明した。
3: やや遅れている
本研究代表者は、一昨年の6月に研究機関を安田女子大学から明治国際医療大学に移籍した関係で、新しい研究機関での研究室の立ち上げに時間が生じたこと、また前研究機関で行った研究成績の再現実験に時間を要したために、交付申請書類に記載した「研究の目的」に対する昨年度までの達成度は70~80%と記載していたが、本年度は研究設備も完了し本来の研究体制を継続出来たことから、昨年度分の遅れは解消した。その関係で、本年度については若干の遅れが残っている状況である。
本研究代表者が在籍する明治国際医療大学において、研究整備は既に終了していること、前研究施設に無かった研究設備(RI実験室、臨床試験研究棟)が整備されており、研究環境はむしろ改善したこと、研究分担者との研究成果についての討論等は日常的に行っているので、その協力関係は極めて良好であること、等から今後の研究遂行に全く問題はないものと考える。研究課題については、本殿度は膵β細胞からのインスリン分泌に関わるGLP-1の特性の解析を進め、併せてGLP-1分解産物に親和性を示す膵αおよびβ細胞膜上のGLP-1受容体の薬理学的特性の解析を行っていく予定である。
機器導入に際して付帯工事(増設工事を含む)が発生したため、購入時期が遅れた。
膵α細胞からのグルカゴン分泌抑制に関わるGLP-1分解産物の同定と動態解析、併せてGLP-1分解産物に親和性を示す膵αおよびβ細胞膜上のGLP-1受容体の薬理学的特性の解析を行う上で必須の機器を、当初の計画通りに購入する予定である。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件)
Journal Clinical Investigations
巻: 125 ページ: 2824-2834