本研究では、血糖依存性に膵β細胞からのインスリン分泌を亢進する作用をもつ消化管ホルモン(GLP-1)の産生亢進とグルカゴン血中濃度の抑制に強い相関性が認められること、およびこの作用がGLP-1分解酵素の阻害薬の共存により消失すること、等のこれまでの成績を踏まえ、糖尿病の発症およびその進展におけるGLP-1の機序の詳細を、マウスより単離した膵β細胞を用いて検討した。 1 pM GLP-1による活動電位は、PLC 阻害薬により抑制された。1 pM GLP-1はリン酸化PKDを有意に増加させ、その作用はPKC阻害薬により抑制された。GLP-1によるインスリン分泌の増強機序は、従来から高濃度GLP-1を用いた実験結果からEpac2-PKA依存性経路が関与していると考えられてきた。しかし今回得られた成績では、生理的濃度と考えられる数pM程度のGLP-1濃度の刺激では、PKA経路ではなく新たにPKC依存性経路を介したインスリン分泌機構が存在することが判明した。すなわち、低濃度GLP-1による細胞膜の脱分極効果は、PKA阻害剤、KATPチャネル遮断薬、およびL型Ca2+チャネル遮断薬の存在下においても、PKCの活性化因子であるPMAによって再現されたが、この脱分極は細胞外Na+を低下させることによって消滅した。膜電位に対するGLP-1のPKC依存性効果および膜電位活性は、タプシガルジン感受性Ca2+貯蔵からの細胞内Ca2+の動員によるNa+透過性TRPM4およびTRPM5チャネルの活性化によって媒介されることが判明した。同様にこのGLP-1効果はTrpm4またはTrpm5を KOした膵島細胞で消失した。これらのデータは、GLP-1の治療作用に対する重要な方向性を示すものであり、このホルモンの循環レベルがβ細胞によるインスリン分泌を直接刺激することを示唆することが明らかとなった。
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