研究概要 |
本年度は, 応用研究として, システインおよび硫化水素の生成に関与する遺伝子(cysJ, cysKおよびcysM)を破壊した大腸菌株の作製と, それらを宿主とした抗結核薬D-サイクロセリン(DCS)の大量生産実験を中心に行った。 遺伝子破壊大腸菌の作製においては, まず, 標的遺伝子の上流領域, 薬剤耐性遺伝子, 標的遺伝子の下流領域の順にベクター上で連結し, 遺伝子破壊カセットを作製した。続いて, 作製した遺伝子破壊カセットをPCR法により大量に合成した後, 大腸菌BL21(DE3)株に導入し, Red/ETリコンビネーション法により遺伝子破壊株を作製した。遺伝子破壊株構築の成否は, PCR法を用いて確認した。本年度は, cysJ, cysKおよびcysM各遺伝子の単独破壊株の作製に成功した。続いて, 既に作製済みのDCS生産用ベクターを作製した遺伝子破壊株に導入し, DCSの生産実験を行った。DCSの生産量については, ニトロプルシッド法により定量した。その結果, cysJ, cysK, cysMいずれの破壊株を用いた場合でも, 野生株と比較して数倍程度のDCS生産性の向上が認められた。 一方, 基礎研究として, D-アミノ酸環状化活性を有するDCS生合成酵素DcsGについても解析を行った。まず, 大腸菌の宿主・ベクター系を用いて生産させたDcsGを, ニッケルアフィニティークロマトグラフィーにより単一タンパク質として精製した。続いて, 精製したDcsGについて, HPLC等を用いた酵素活性解析を行うことにより, DcsGの酵素学的諸性質を明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は, 応用研究として, 以下の研究計画を立てた。1)大腸菌の染色体上に存在するシステインおよび硫化水素の生成に関与する遺伝子(cysJ, cysKおよびcysM)について, 各 遺伝子の単独破壊株および二重, 三重破壊株を作製する。2)作製した遺伝子破壊大腸菌にDCS生産用ベクターを導入し, DCS生産実験を行い, 野生株を用いた場合とDCS生産性の比較を行う。一方, 基礎研究としては, 以下の研究計画を立てた。1)DCS合成酵素であり, D-アミノ酸環状化活性を有するDcsGの酵素学的諸性質を明らかにする。 本年度の応用研究の成果としては, cysJ, cysKおよびcysM各遺伝子の単独破壊大腸菌株の作製に成功し, それらを宿主としたDCS生産実験を行った結果, 3株いずれの破壊株においてもDCS生産性の増大を確認した。一方, 基礎研究の成果としては, DcsGタンパク質を単一タンパク質として精製し, 組換えDcsGの酵素学的諸性質を明らかにすることができた。以上のことから, 二重, 三重変異株の作製およびそれらによるDCS生産実験の成果は得られなかったものの, ほぼ概ね達成できたものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
ほぼ概ね計画通りに研究が遂行されていることから, 推進方策について大きな変更はない。ただし, 本年度で計画していたcysJ, cysKおよびcysM遺伝子の二重, 三重破壊株の作製, および, それらを宿主としたDCS生産実験については, 次年度に行うことにする。破壊株の作製に必要な遺伝子破壊カセットの作製, および, 各遺伝子の単独破壊株の作製は既に終了していることから, 二重, 三重破壊株は比較的容易に取得できるものと考えている。したがって, 上述した研究を一部追加はするものの, 次年度に予定していた計画を変更することなく研究を遂行できるものと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
計画していたcysJ, cysKおよびcysM遺伝子の二重, 三重破壊株の作製, および, それらを宿主としたDCS生産実験を本年度に行うことができなかったため, それらに関わる費用が次年度使用額として生じた。 生じた次年度使用額については, cysJ, cysKおよびcysM遺伝子の二重, 三重破壊株の作製, および, それらを宿主としたDCS生産実験の目的のためのみに使用し, その他の目的のためには使用しない。その他の予算については, 当初に計上した通りであり, 変更はない。
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