研究代表者は前年度までに、様々な作用機序をもつ抗インフルエンザウイルス成分・化合物を様々な天然資源から見出してきている。本年度も引き続き有望な抗インフルエンザウイルス成分・化合物を見出すべく研究を継続している。近年になり、インフルエンザウイルス遺伝子本体であるvRNPの核外輸送にはウイルス蛋白質NS2や研究代表者の発見した宿主因子Hsc70にコードされている核外輸送シグナル(NES)だけでなく、vRNPを構成するNP蛋白質にもNESが存在する事が論文で報告されている。そこで、NPに対する阻害により抗インフルエンザウイルス効果が得られると考え、候補物質を探索することとした。多数の候補化合物より効率よく阻害剤を見出すために、コンピュータ計算(インシリコ)による化合物の選択を試みた。選び出された候補物質を、実際に培養細胞(MDCK細胞)と生きたインフルエンザウイルスを用いて抗インフルエンザウイルス活性を測定した。NUD-1というキノリノン化合物がIC50値1.8uMと強い活性を持つことを見出した。さらに、この化合物が直接NP蛋白質に結合することを表面プラズモン共鳴を用いて証明した。ウイルス粒子産生を実際に抑制していることを確認した。NUD-1はH1N1型およびH3N2型の実験室株インフルエンザウイルスだけでなく、2009年より流行した新型インフルエンザウイルスの臨床分離株にも効果を示した。NUD-1はNP蛋白質に作用するため、タミフル等の既存のノイラミニダーゼ阻害剤に耐性を持つウイルスにも効果があると考えられる。さらにキノリノン骨格を持つ化合物はこれまでに医薬品として多数認可されており、見出した化合物も今後類似の構造をもつ化合物の合成展開を行うことで、より強い活性をもつものを開発することが期待される。
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