潰瘍性大腸炎の患者血清中には、嫌気性菌Fusobacterium variumに対する抗体が高頻度に検出され、本疾患の発症原因の一つとしてF. variumの関与が示唆されている。F. variumは、極めて高い酪酸産生能を有することを特徴とする。そこで培養結腸上皮細胞に対する酪酸の作用について検討を行った結果、低濃度の酪酸が結腸上皮細胞に対して細胞死を誘導することを見いだした。潰瘍性大腸炎の発症に酪酸の関与が示唆されたことから、酪酸によって誘発される結腸上皮細胞死を抑制することにより潰瘍性大腸炎の病態の改善が期待される。本研究では、潰瘍性大腸炎治療薬のシード化合物の探索を目的として、酪酸による結腸上皮細胞死に対する和漢薬エキスの作用について検討を行った。 メタノールで抽出した生薬エキスを実験に供した。結腸上皮細胞株としてSV40大型T抗原を導入したトランスジェニックマウスより樹立されたMCE301細胞を用いた。生薬エキス存在下にMCE301細胞を酪酸で刺激し、結腸上皮細胞死の抑制効果を評価した。細胞の生存率はMTT法を用いて測定した。 和漢生薬のエキスについて検討を行った結果、沢瀉のエキスに酪酸による細胞死を抑制する活性が観察された。沢瀉のメタノールエキスを活性を指標にして各種クロマトグラフィーを用いて分画し、2種の活性成分を単離した。構造解析を行った結果、これらの活性成分はトリテルペノイドに分類されるアリソールBおよび酢酸アリソールBであると同定した。既に、ベルベリン型アルカロイドのCoptisineが酪酸による細胞死抑制作用を有することを見出しているが、母核構造が全く異なる化合物に同様の活性が見出されたことは興味深い。
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