研究課題/領域番号 |
25460135
|
研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
立川 英一 東京薬科大学, 薬学部, 教授 (50146031)
|
研究分担者 |
柳原 延章 産業医科大学, 医学部, 教授 (80140896)
三巻 祥浩 東京薬科大学, 薬学部, 教授 (90229790)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | リンゴ葉 / 生物活性物質 / イカリシド / カテコールアミン / コルチゾル / 抗ストレス作用 / 副腎髄質細胞 / 副腎皮質細胞 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は身近にあり、手軽にしかも大量に入手可能なリンゴ葉からの生物活性成分を探索し、疾病治療および疾病予防のための創薬シーズを見つけることである。 平成26年度においては、フロリジンが単離された(前年度)葉抽出物のHP-20カラムクロマトグラフィー70%メタノール画分から新規生理活性物質の分離をさらにこころみた。その結果、シリカゲルカラム並びに逆相ODSカラムクロマトグラフィーを繰り返しおこなうことで、イカリシドC2やC3、ケンフェリン並びにケルセチンを単離した。イカリシドC2とC3はリンゴ葉から初めて単離された成分である。イカリシドC3はAChによる副腎髄質細胞からのカテコールアミン(CA)分泌を比較的強く抑制したが、電位依存性Ca2+チャネルを活性化するhigh K+刺激によるCA分泌には影響しなかった。これはイカリシドC3がニコチン性ACh受容体に拮抗してCA分泌を抑えていると考えられる。一方、イカリシドC3はACTHによる副腎皮質細胞のコルチゾル産生には影響しなかった。イカリシドC2やケンフェリンは収量が微量であった。そのためケンフェリンのアグリコンであるケンフェロールのホルモン分泌における生物活性を検討した。ケンフェロールはACTHによるコルチゾル産生並びにAChによるCA分泌を強く抑えた。 副腎から分泌されたCAとコルチゾルは普段、体の恒常性維持に働いているホルモンである。ストレスが体に負荷されるとこれらホルモンが大量に分泌され、ストレスに対抗する。そのためストレスホルモンとも呼ばれる。しかしストレスホルモンが過剰に分泌されると、各組織の障害を招き、病気の発症へとつながる。今回、リンゴ葉から得られたイカリシドC3やケンフェロールがストレスホルモンの分泌を抑制したことは、これら成分及びリンゴ葉が抗ストレス活性を有している可能性を示している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今回、リンゴ葉より抽出、分離され構造が明らかとなったイカリシドC2やイカリシドC3はリンゴ葉では初めて単離された化合物であり、それらの生物活性についての報告はほとんど見あたらない。その中でイカリシドC3がカテコールアミン分泌抑制活性を示すことを明らかにしたことは、学術的価値が非常に高い。しかしイカリシドC2とC3の収量が低く、カテコールアミン分泌抑制活性の詳細なメカニズムまで検討することができなかったが、ここまでの研究成果を第130回日本薬学会関東部会(2014年7月、東京)、生体機能と創薬シンポジウム2014(2014年8月、東大阪)並びに第88回日本薬理学会年会(2015年3月、名古屋)で発表した。また論文を現在引き続き作成中で、完成後学術誌に投稿する予定である。 一方、リンゴ葉成分の抗ストレス作用をin vivoで検討するため、ストレス病態モデルマウスを作成するための準備を始めたところである。 このように、研究は計画よりも僅かに遅れているものの着実、順調に進行しており、さらなる成果が期待される。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでにリンゴ葉メタノール抽出物のHP-20カラムクロマトグラフィー70%メタノール画分からフロリジンやイカリシドC3など多くの化合物を単離、構造決定し、それらが副腎ホルモン分泌抑制活性を示すことを明らかにしてきた。今年度は、HP-20カラムクロマトグラフィー50%メタノール画分へリンゴ葉成分の成分探索研究を移し、検討を続ける。HP-20カラム50%メタノール画分からは70%メタノール画分とは極性の異なる有用性の高い生物活性を有する新規化合物が得られるものと期待される。 一方、「現在までの達成度」に記載したように、ストレス病態モデルマウスの作成をおこない、寒冷拘束により胃潰瘍が発症することを確立した。このストレス病態モデルマウスにリンゴ葉メタノール抽出成分を投与し、ストレスによって発症する疾病をリンゴ葉成分が防御できるのかin vivo系で明らかにする。 「科学研究費助成事業実施状況報告書(平成25年度)」の“今後の研究の推進方策”において、リンゴ葉メタノール抽出画分の①肥満・糖尿病・脂質異常症;②高血圧症・脳卒中;③記憶と学習障害;④悪性腫瘍の増殖・転移;に対する影響を動物病態モデルで検証することになっていたが、平成26年度においてもリンゴ葉からの単一物質の単離を優先したため、in vivo系での検証に至らなかった。今年度においては、in vivo系でリンゴ葉成分の抗ストレス作用を見きわめた後、①、②、③そして④へ研究を進め、in vivoとin vitro系でのリンゴ葉成分の機能性を追求していく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
リンゴ葉からの有効成分の単離、構造決定並びにin vitroでの生物活性の検討に時間を費やしたため、リンゴ葉メタノール抽出画分の脳卒中易発症ラット(SHRSP)への投与をおこない、高血圧と脳卒中への影響を調べることができなった。また認知症病態モデルの老化促進モデルマウス(SAM)と糖尿病モデルマウスを購入して、記憶と学習障害並びに肥満、糖尿病に対するリンゴ葉メタノール抽出画分の影響をそれぞれのマウスで調べられなかった。これらの理由から次年度への若干の使用額が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
ストレス病態モデルを作成するためのマウス購入やSHRSP、SAM、糖尿病モデルマウスの購入を計画よりも増やし、繰り越された金額を使用する。また、細胞培養の試薬と器具の購入にもあてる。
|