研究課題/領域番号 |
25460137
|
研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
山口 洋子 日本大学, 歯学部, 助教 (00239922)
|
研究分担者 |
大島 光宏 奥羽大学, 薬学部, 教授 (30194145)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 3次元培養 / 口腔がん浸潤モデル / 生薬 |
研究実績の概要 |
歯周炎罹患歯肉から、コラーゲンゲル三次元培養すると口腔癌細胞の浸潤を顕著に促進するアグレッシブ線維芽細胞を分離し、「生体外口腔癌浸潤モデル」を確立した。オウゴン、カンゾウ、ケイヒ、サイシン、ジオウ、センキュウ、ブクリョウ、ボウフウ、オウギ、オウレン、オンジ、カッコン、カンキョウ、キョウカツ、ケイガイ、ゲンチアナ末、コウボク、ゴシュユ、ゴミシ、サイコ、サンシシ、サンズコン、サンソウニン等の33種類の生薬から、熱水またはメタノール抽出を行い、凍結乾燥した成分を生薬のサンプルとして、口腔がん浸潤阻害効果のある生薬をスクリーニングした。実験に用いた細胞は口腔扁平上皮癌(Ca9-22)および舌癌(HSC-3)で、浸潤阻害の程度は三次元培養ゲルからHE標本を作製し、浸潤細胞数を計数してコントロールとの比率により評価した。用いた線維芽細胞や癌細胞の違い、また生薬の抽出法の違いで結果は異なったが、概ね顕著な浸潤阻害効果がみられたのは、オウゴン、ケイヒ、オンジ、サンソウニン、シャクヤクであった。また用いた生薬の中には、浸潤を却って促進したものもあった。 さらに、経日的にゲルからRNAを抽出し、マイクロアレイ解析によって浸潤に関与する候補遺伝子を検索したところ、cancer-associated fibroblasts(CAFs)で高発現が報告されている30種類の遺伝子が発現上昇していた。このことはアグレッシブ線維芽細胞とCAFsとの類似性を示唆していると考えられる。 また、以下達成度の項で述べるとおり、アグレッシブ線維芽細胞のCAGEデータ解析により、アグレッシブ線維芽細胞の成り立ちが解明できる可能性が出てきたことから、口腔癌細胞の浸潤阻害に有効な生薬をスクリーニングするための手段として活用できる可能性がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
理研FANTOM5プロジェクトに研究分担者の大島が参画しており、浸潤を顕著に促進するアグレッシブ線維芽細胞のCAGE解析を依頼していた(Forrest AR et al., Nature 507, 462-70)。このデータベースから、東大呼吸器内科・堀江先生の協力を得て解析を進めたところ、ある重要な遺伝子に関して、アグレッシブ線維芽細胞に特異的なプロモーターの使用状況が明らかになった(特許申請中で公開前につき、遺伝子名は伏す)。さらに、この遺伝子のプロモーター別PCR 用primerの設計が成功したことにより、アグレッシブ線維芽細胞かノーマル線維芽細胞かを、二次元培養細胞を用いたRT-qPCRで判別する方法を確立することができた。現在この遺伝子とその上流の遺伝子に対するmiRNA transfectionによるRNAi実験を行っており、transfectできた細胞が得られ次第、口腔がん浸潤モデルを用いた実験を始めることになっている。これがうまくいけば、口腔がん細胞の浸潤を促進するアグレッシブ線維芽細胞の原因候補遺伝子が判明することになり、腫瘍間質をターゲットにした、新しい口腔がん治療法が開発できると考えている。また、浸潤を阻害する生薬のスクリーニングがRT-qPCRで行うことができるようになり、生薬ごとに三次元培養で2週間かかっていたその有効性の判定が、わずか数日で行うことが可能となった。
|
今後の研究の推進方策 |
前述したとおり、アグレッシブ線維芽細胞による口腔がん細胞浸潤促進遺伝子が明らかとなれば、その遺伝子発現を調節する生薬をRT-qPCRで迅速にスクリーニングできるようになる。今後は、全ての生薬を二次元培養したアグレッシブ線維芽細胞に作用させ、浸潤促進遺伝子の発現を調節できたものをリストアップし、三次元培養でも浸潤を阻害するかどうかを確認する。この方法で、RT-qPCRによるスクリーニングの有効性が証明できれば、生薬のみならずさまざまな浸潤阻害薬の候補を短期間でスクリーニングできることになり、腫瘍間質をターゲットにした新規口腔がん治療法開発に対する貢献は非常に大きなものとなるであろう。
|
次年度使用額が生じた理由 |
現在の達成度の項にも記したとおり、昨年度の中頃に東大呼吸器内科の堀江先生が理研FANTOM5のCAGE dataを解析し、アグレッシブ線維芽細胞に関する大きな発見を成し遂げた。この発見が、アグレッシブ線維芽細胞の口腔がん細胞の浸潤促進にかかわる遺伝子promoterかどうかは、堀江先生によるRNAi実験成功の報せを待つほかない。このため、当初予定していた三次元培養を一部延期し、代わりにqPCRで確認できる実験系の確立を急ぐことにした。この研究内容の変更により、次年度使用額が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
東大呼吸器内科堀先生から、RNAi後のアグレッシブ線維芽細胞を受け取り次第、三次元培養を行う。これにより、ノーマル線維芽細胞が口腔がん浸潤を促進する表現型に変化するかどうか、またはアグレッシブ線維芽細胞が口腔がん細胞の浸潤を促進しない表現型に変化するかどうかをチェックする。この実験により、浸潤促進遺伝子が判明するとともに、qPCRで生薬の効果がスクリーニングできるハイスループットな実験系が確立できる。このために、次年度使用額を確保致した。
|