現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では,アルキル-アルキル炭素間でのクロスカップリング反応の実現と,エチル基を炭素骨格に含み,医学・生物学的に重要な薬剤の11C含有PET用プローブ合成にこの新反応を活用することを目的とする。本研究の推進には,①ベンジルホウ素化合物の基本基質を用いた高速C-メチル化反応条件の最適化,②sp3-sp3型高速C-メチル化反応が適用される構造の拡張,③sp3-sp3型高速C-メチル化反応を活用した重要な薬剤の11C標識化とそのボロン標識前駆体合成,などが必要である。当該年度(平成25年度)では,研究当初に計画した(1)過剰量のベンジルボロン酸ピナコールエステルを基質としたヨウ化メチルとの高速クロスカップリング反応の条件(ホスフィンリガンドおよび塩基の種類と使用量,溶媒,反応温度)を最適化した。PET条件に近似したときの反応を評価し,触媒系がPETプローブ合成に相応しいことを示した;(2)ベンジルおよびシンナミルボロン酸エステルに電子供与性基および電子吸引性基を置換したさまざまな誘導体に,最適化sp3-sp3型高速メチル化反応条件を適用して,対応するメチル化体が高収率で得られることがわかった。これらの実施に加えて,(3)N-4-エチルフェニルプロピオンアミドを11C標識対象基質に選択し,上記で確立したsp3-sp3型高速メチル化反応が放射性下で適用されることを実証した;(4)鈴木-宮浦反応を加速することで知られているTlOH塩基の使用では,ベンジルおよびアリルホウ素化合物を用いるメチル化反応には加速効果を示さず,高速C-メチル化反応条件である毒性の低いK2CO3あるいはCsFの加速効果が高いことを示した。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度に確立したsp3-sp3型高速C-メチル化反応の活用により,エチル鎖を炭素骨格に含む医学・生物学的に重要な薬剤であるインスリン非依存型糖尿病でインスリン抵抗性のある患者の血糖値を下げるための薬であるピオグリタゾンおよび,ステロイドホルモン受容体陽性乳がんの治療薬として処方されているタモキシフェンの11C標識PETプローブを創製する。本研究課題を実現する鍵は,11C標識PETプローブのボロン酸エステル標識前駆体の合成法を確立することである。予備実験的に,ピオグリタゾンの構造に含まれる3-エチルピリジン部分構造に対応するボロン酸エステル前駆体の合成を試みたが,目的化合物を安定に得ることが困難であることがわかった。今後,インスリン受容体に対する構造-活性相関研究の報告に基づき,強力な活性を保持したままボロン酸エステル誘導体合成が可能な構造への変換を図る。平行して,タモキシフェンの構造内のエチル鎖の末端メチルを11C標識候補位置とし,対応するボロン酸エステル体の合成を行う。ヨウ化ベンゼン,アルキン誘導体,およびアリールボロン酸誘導体の三成分から,Pd(II)錯体存在下,4置換オレフィンであるアルコール合成中間体を位置および立体選択的に合成する。この中間体のカルボン酸への酸化つづいてハンスディーカー反応により一炭素を減炭して臭化ビニル体を得て,強塩基処理後,2-(ブロモエチル)-4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロランの使用により目的とするボロン酸エステル体を合成する。ホウ素前駆体が合成されれば,非放射性条件下で高速C-メチル化反応条件の最適化,分離精製までのプロトコールを完成させ,実際の放射性条件下でPETプローブのテスト合成を行う。
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