研究課題/領域番号 |
25460147
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
古山 浩子 岐阜大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (50402160)
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研究分担者 |
伊集院 良祐 東京薬科大学, 薬学部, 助教 (40442925)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | PETプローブ合成 / アルキル-アルキル間クロスカップリング反応 / 高速反応 / ボロン化合物 / パラジウム触媒 |
研究実績の概要 |
「高速C-[11C]メチル化反応」は,11CH3I使用のもと炭素-炭素結合形成反応により短寿命放射性核種11Cを代謝安定な位置に標識できる新規標識合成法である。本研究では,最後に残されたsp3炭素間のクロスカップリング反応の実現に取り組み,薬剤分子構造において応用範囲が広いベンジル位およびアリル位炭素(sp3炭素)に11Cで標識できる新たなパラジウム触媒系([Pd{P(tert-C4H9)3}2]/CsF/DMF/H2O/5分間加温)を見いだした。非放射性条件において([ヨウ化メチル]/[基質] = 1:40),目的とするエチルベンゼンが反応温度依存的に高収率で得られることがわかった(80 °C, 88%)。なお,鈴木-宮浦反応を加速することで知られているTlOH塩基の使用では,本メチル化反応は加速されず特別な効果が見られなかった。上記の最適化された反応条件を電子供与性あるいは電子吸引性置換基を導入したベンジルおよびシンナミルボロン酸エステル誘導体に適用し(80-100%収率),sp3-sp3型高速C-メチル化反応が適用される構造を拡張した。本反応は実際のN-(4- [11C]エチルフェニル)プロピオンアミドの合成にも適用され,HPLC分析収率90 ± 1%で目的の11C標識体が得られることがわかった。さらに,エチル鎖を炭素骨格に含む医学・生物学的に重要な薬剤である,非ステロイド性の抗エストロゲン剤として知られているタモキシフェンの11C標識化に活用することにした。このタモキシフェンは,置換基が異なる四置換オレフィンであり,置換エチル基の末端メチルを11C標識候補位置とした。本目的に向け,Pd(II)錯体を介するヨウ化アリール内部アルキン,アリールボロン酸の3成分カップリング反応を機軸とする,対応する内部オレフィンボロン酸エステル標識前駆体の合成に取り組んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,アルキル炭素間でのクロスカップリング反応の一般性の確立と,エチル基を炭素骨格に含み,医学・生物学的に重要な薬剤の11C含有PET用プローブ合成にこの新反応を活用することを目的とする。本研究の推進には,①ベンジルホウ素化合物の基本基質を用いた高速C-メチル化反応条件の最適化,②sp3-sp3型高速C-メチル化反応が適用される構造の拡張,③本法を活用した重要な薬剤の11C標識化とそのボロン標識前駆体合成,などが必要である。これまでに,まず,(1)過剰量のベンジルボロン酸ピナコールエステルを基質としたヨウ化メチルとの高速クロスカップリング反応の条件(ホスフィンリガンドおよび塩基の種類と使用量,溶媒,反応温度)を最適化することができた。また,PET条件に近似したときの反応を評価し,本触媒系がPETプローブの合成に相応しいことを示すことができた;第二に,(2)最適化sp3-sp3型高速メチル化反応条件をベンジルおよびシンナミルボロン酸エステルに電子供与性基および電子吸引性基を置換した誘導体に適用したところ,対応するメチル化体が高収率で得られることがわかった;さらに,(3)N-4-エチルフェニルプロピオンアミドの11C標識化合物を高収率・高い純度で得ることができ,sp3-sp3型高速メチル化反応が超希薄の放射性条件下でも適用されることを実証した;最後に,(4)鈴木-宮浦反応を加速することで知られているTlOH塩基はメチル化反応には加速効果を示さず,これまで我々が開発してきた毒性の低いK2CO3あるいはCsFに優るものではないことがわかった。なお目的③について,エチル鎖を炭素骨格に含む2型糖尿病治療剤のピオグリタゾンおよび,抗悪性腫瘍剤であるタモキシフェンに対応するボロン標識前駆体の合成は現在検討中である。
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今後の研究の推進方策 |
sp3-sp3型高速C-メチル化反応を活用した重要な薬剤の11C標識化とそのボロン標識前駆体合成を実現するには,11C標識PETプローブのボロン酸エステル標識前駆体の合成法を確立することが重要である。 タモキシフェンのボロン酸エステル標識前駆体の合成研究:ヨウ化アリール,ボロン酸エステルを含む内部アルキン,アリールボロン酸誘導体の3成分を用いて, Pd(II)錯体存在下,4置換オレフィンを構築する超短工程合成を試みた。生成物の構造決定は反応直後では難しく,メチル基の導入後に行うこととした。いくつかの条件下,3成分が効果的に連結する条件が見いだせたが,得られたボロン酸エステルをメチル化し,1H, 13C NMR解析およびHPLC分析すると,残念ながら生成物はタモキシフェンの位置異性体であることがわかった。この位置異性体の生成は,反応過程において, B原子のPd金属への配位により位置が目的とは逆の向きに固定されるためと考えられる。この事実をふまえて,立体的効果を逆に利用した反応系を設計したが,N,N-ジメチルエトキシ基置換ヨウ化アリールの反応性が低いため目的とするカップリング反応が進行しなかった。今後,低原子価チタン種によりベンゾフェノン誘導体とアセトフェノン誘導体とから還元的にカップリングを行うMcMurry反応を機軸にしたボロン酸エステル前駆体の合成を試みる予定である。 ピオグリタゾンの標識用ボロン酸エステル体の合成研究:ピオグリタゾン((RS)-5-(4-[2-(5-エチルピリジン-2-イル)エトキシ]ベンジル)チアゾリジン-2,4-ジオン)の炭素骨格に含まれるエチルピリジンユニットの末端メチルが11C標識候補位置として挙げられるため対応するボロン酸エステル標識前駆体の合成法も今後達成したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度は,エチル基を炭素骨格に含む重要な生理活性化合物ピオグリタゾンおよびタモキシフェンの短寿命放射性核種11C標識したPETプローブ合成を目的とし,研究目的に向けた必要かつ多くの合成検討を行うため。
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次年度使用額の使用計画 |
合成原料や中間体,反応剤,ガラス器具,分離精製資材などの消耗品が必要となる。合成途上および最終生成物の構造決定に供すべき核磁気共鳴スペクトル分析(NMR), 質量分析(MS)装置,元素分析装置は岐阜大学(古山)および東京薬科大学(伊集院)に設置された装置の使用を予定し,その使用料が必要になる。PETプローブ合成は,サイクロトロンおよび放射性物質を安全に取り扱うためのホットセルなどが整備されている国立長寿医療研究センターの施設を利用するため,旅費(岐阜-大府,八王子-大府),滞在費などを必要とする。得られた研究成果は国内外での学会での発表および学術雑誌への投稿を予定し,旅費,印刷代などに計上している。
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