研究課題/領域番号 |
25460150
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
川原 浩一 熊本大学, 生命科学研究部, 助教 (10347015)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | アルツハイマー病 / インターロイキン4 / ミクログリア / レチノイン酸受容体 / レチノイドX受容体 / Am80 / HX630 / オリゴマー状アミロイドβ |
研究概要 |
2型ミクログリア(MG)の抗炎症/抗酸化/貪食作用の活性化剤を探索した。今年度は特に、in vivo(アルツハイマー病モデルマウス)でのAβ減少作用と記憶改善作用が見出されているレチノイドが、MGの貪食作用と細胞分化に与える影響を解析した。レチノイン酸受容体(RAR)アゴニストAm80とレチノイドX受容体(RXR)アゴニストHX630を両MGサブタイプへ共添加すると、1型でのみ、125I標識オリゴマー状Aβ(o-Aβ)のクリアランス活性が増大した。その活性は、インスリン分解酵素(IDE)阻害剤で阻害されたことより、Am80/HX630による1型MGのo-Aβ貪食活性増大には、IDEが寄与することがわかった。また、Am80/HX630を1型MGへ添加すると、M2分化に関与するIL-4Rαの発現が増大したが、2型MGでは、もともとIL-4Rαの発現が高いせいか、発現増大は観察されなかった。以上の結果より、Am80/HX630は、1型MGへ作用し、IL-4Rα陽性のM2様細胞への分化を促進し、o-Aβの貪食活性を増大させる可能性が示唆された。アルツハイマー病モデルマウスのAβプラーク周囲には、RARα陽性のMGが集積しており、Am80/HX630は、この細胞の貪食作用を促進する結果、脳内不溶性Aβを減少させると考えられる。もしくは、レチノイドは、脈絡叢から脳室内へ移行してきた1型MG(あるいは未成熟MG)へ作用し、貪食活性の高いIL-4Rα陽性M2細胞への分化を促したものと思われる。この理由は、最近M2細胞分化の場として、脈絡叢が注目されており、RARαの発現が、Aβプラーク周囲に加え、脳室周囲や第三脳室の周囲に著しく発現しており(この細胞はGFAP陽性であった)、生理的にも脳室にはレチノイン酸が豊富に存在することが推察されたためである。加齢に伴うレチノイドシグナルの低下は、MGのIL-4Rα発現を低下させ、慢性炎症を引き起こすのかもしれない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
レチノイドによるアルツハイマー病治療法の実現に向けた新たな基礎知見を提示することができた(Kawahara et al., J Alzheimer's Disease)。 抗がん剤であるレチノイドX受容体(RXR)アゴニスト・bexarotene(商品名Targretin)は、一昨年2月に欧米のグループらが、アルツハイマー病モデルマウスに対して著明な治療効果を示すことを報告して以来、アルツハイマー治療薬としての適用拡大の可能性が期待されてきた(Science誌, 2012年)。しかしながら翌年になって、他の4つの研究チームが別個に同様の実験を行っても、そのような結果を得ることができなかったことを報告した(Science誌, 2013年5月)。今回我々は、脳内に不溶性アミロイドβペプチドが蓄積し、空間認知機能が著しく衰えたアルツハイマー病モデルマウス(8.5ヶ月齢)に対し、白血病治療薬のレチノイン酸受容体(RAR)アゴニスト・tamibarotene(商品名Amnolake)とRXRアゴニストとを17日間併用投与すると、脳内に蓄積した不溶性アミロイドβペプチドが約50%減少し、マウスの記憶力が顕著に改善することを見出した。この効果は、RXRアゴニストやRARアゴニストの単独投与では認められなかった。このRXRアゴニストとRARアゴニストとの併用投与による記憶改善効果は、上記bexarotene効果の食い違いを解決するヒントを与えるだけでなく、ヒトにおいても併用投与の有用性が認められ、アルツハイマー病の新規治療法となり得るか、今後の進展が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
これまでレチノイドに注目して研究を行ってきたが、今後はそれに加え、他の化合物についても検討する。すなわち、2型ミクログリアは1型ミクログリアと比べ、抗酸化活性が高いと考えられ、その活性を促進する化合物を探索する。これまでに、まだ手探りの段階であるが、ある種のGPCRのアゴニスト(7残基のペプチド)が、ミクログリアの抗酸化酵素の発現を著明に増大させることを見出しているため、その分子メカニズムの解析を進める。スクリーニングで浮上してきた化合物を、Nrf2活性化依存的にルシフェラーゼ遺伝子を発現するマウスと、アルツハイマー病モデルマウスとを交配して得られたマウスに投与し、in vivoでの効果を検証する予定である(これら2種のマウスの使用については、すでに、トランスジェニック社およびノバルティス社と、MTA契約を交わしている)。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度の未使用額の大半は、最近掲載が決定した学術論文の別刷代に充てる(5月下旬支払い予定)。 掲載が決定した学術論文の別刷代に充てるとともに、スクリーニングで浮上してきた化合物の分子メカニズムを解析するため、分子生物学試薬や生化学試薬を購入する。また、細胞培養ならびに実験動物の繁殖や維持に関わる経費を計上する。
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