研究課題/領域番号 |
25460153
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
大場 基 昭和大学, 腫瘍分子生物学研究所, 講師 (70297018)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 分子標的治療 / PKC / 炎症 / 皮膚 |
研究実績の概要 |
PKCetaを分子標的とし、その発現・機能を阻害することで、炎症性皮膚炎を快癒させる新規治療法の開発を目標とした。PKCeta siRNAを、ハプテン誘導性にアトピー性様皮疹を生じるマウス:NC/Ngaマウス皮膚に接触させ、その効果を1)臨床的診断2)免疫学的診断、3)病理学的診断の観点から検討した。26年度は、脂質エマルジョンを用いたsiRNA導入法に加え、新たにイオントフォレーシス法や機能性ペプチドを用いた導入法の検討を行った。機能性ペプチドとしては、細胞透過性ペプチド:Tat、タイトジャンクション開口作用を持つペプチド:AT1002を用いた。これらの方法によりPKCeta siRNAをNcマウス皮膚に導入し、その抗炎症効果を検討した。特に、上記の機能性ペプチドは、RNaseAによるsiRNAの分解を阻害し、有効にsiRNAを皮膚内に輸送することが可能であった。この方法を用いることで、NCマウスに誘導された耳介皮膚における皮膚の肥厚やアトピー用皮膚炎の臨床的指標の抑制が確認された。 また、PKCeta偽基質配列ペプチド(TRKRQRAMRRRVHQVNG)を用いた、蛋白質導入によるPKCetaの機能阻害による抗炎症効果も検討した。同ペプチドを細胞内に導入するために修飾を加え、表皮ケラチノサイト等の培養細胞への導入を試みた。ポリアルギニン配列付加によっては細胞内導入できなかったが、ミリストイル化によって効果的に導入が可能であり、その酵素活性も阻害された。しかしながら、マウスへの経皮吸収効率は非常に低く、効果が確認できなかった。他の修飾や皮膚特異的ナノ粒子等のドラッグデリバリーシステムを検討する必要があると考えている。 更に、全身性慢性炎症疾患への応用を検討するために、動脈硬化モデルマウス:ApoEを用いて、同マウスに対する適用方法を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PKCeta siRNAの導入が機能性ペプチドを用いることで、従来の方法(脂質エマルジョン、イオントフォレーシス法)に比べて、非常に簡便且つ安定的に皮膚内導入することが可能となった。また、同siRNAによって皮膚における抗炎症作用が確認されたことから、PKCetaを標的とした遺伝子治療法は予定通り遂行することができた。 ペプチド療法は、培養細胞に対しては有効であったが、マウス皮膚に対しての導入が想定よりも困難であり、この点は今後の検討が必要である。 また、内科的慢性炎症性疾患モデルマウスに対する導入法の予備的な検討が終了し、今年度の目標を達成することができた。
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今後の研究の推進方策 |
PKCetaペプチドの安定的・高効率な皮膚内へのデリバリ法やより高い酵素活性阻害法を確立する。そのためには、偽基質配列への新たな修飾導入(例、PKCetaの局在部位である小胞体やゴルジ体への移送シグナル配列)や皮膚特異的ナノ粒子等を利用することを考えている。 また、動脈硬化等の全身性慢性炎症性疾患の予防、治療を想定して、ApoE-/-マウスに対してPKCeta偽基質ペプチドを適用することで、抗炎症作用や動脈硬化の抑制が認められるか否かを検討する。更に、SELEX法によってDNA(RNA)アプタマーをスクリーニングし、PKCを標的とした新規且つ有効な抗炎症治療ツールの開発を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験に使用した各種のペプチドは専門業者への外部受託により行ったが、合成価格が当初見込みよりも大幅に低下したため、最終的な使用額の減少につながった。また遺伝子治療に係る動物実験が想定した以上に円滑に終了することができたため、使用予定数よりも少ない頭数であったことも原因となっている。
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次年度使用額の使用計画 |
PKC偽基質ペプチドの導入効率の向上のために、新たな修飾ペプチドや種々の基剤(生体吸収性ハイドロゲル)、ナノ粒子の効果を検討する。これらのペプチド合成やドラッグデリバリー剤の多くは外部受託により得るため、多額の資金が必要となる。平成27年度は当初見込みよりも多くの資金が使用できるため、より多くの基剤等の効果を比較検討することができると考えている。
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