研究実績の概要 |
生物活性化合物の部分構造として広く存在するベンズアミド(あるいはアニリド)構造には、軸性キラリティーが潜在している。このようなアミド型軸不斉が生物活性の発現において重要な役割を果たしていることを明らかにし、最終的には、新たな生物活性物質、医薬品シードの創製をめざすものである。本年度は、生物活性化合物の基本骨格として頻用されているベンゼン環縮合含窒素7員環構造を持つ化合物について、以下の2項目に取り組んだ。(1) アミド軸不斉の存在の表出と立体化学の解明、(2) アミド軸不斉を活かした新規生物活性物質の創製。 本年度の主要な成果は以下の2点である。1)N-アリールスルホニル-ベンゾアゼピン類には、既報のN-ベンゾイル同族体と同様に軸不斉が潜在していることを明らかにし、その物理化学的性質をN-アリールスルホニル体とN-ベンゾイル体を比較しながら、詳細に調べた (J. Org. Chem., 2014, 79, 5717-5727)。2)前年度明らかにした1,5-benzothiaine S-oxideの化学(J. Org. Chem., 2013, 78, 6264-6270)およびこれまでの申請者らの行ってきた研究の展開として、バソプレシン受容体拮抗作用をもつN-benzoyl-1,5-benzothiaineおよびそのS-oxide誘導体を合成し、生物活性を調べるとともに活性発現に寄与する立体化学を明らかにした(J. Med. Chem., 2015, 58, 3268-3273)。この研究では,7員環構造部分の軸不斉構造を含む立体化学を各種分析機器による詳細な解析とともに、立体異性体の選択的な合成方法を見出すことができ、医薬品化学として価値があるとともに基礎的な有機化学の観点からも大変興味深い知見を得ている。
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