研究課題/領域番号 |
25460157
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
常盤 広明 立教大学, 理学部, 教授 (10221433)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 合理的創薬 / 高精度全電子計算 / フラグメント分子軌道法 / インフルエンザウイルス / デングウイルス / 生活習慣病 |
研究概要 |
創薬ターゲットの立体構造を利用した高効率な論理的創薬には、コンピュータ(in silico)解析が、今や欠かせないものとなっている。本申請研究では、従来法とは一線を画する高精度全電子計算や分子動力学的シミュレーションに基づく新規創薬システム基盤を確立し、実際の新規薬物開発への応用を展開する。理論設計先行型創薬の実現を目指し、合理的に設計した薬物候補化合物については実際に化学合成を行い、生物活性測定によりそれらの有効性についても検討する。標的としては、近年、高齢化社会で急造する“アンメットメディカルニーズ”に対応するために、糖尿病をはじめとする生活習慣病やアルツハイマー病などを取り上げ、長期間投与でも副作用が出にくい化合物の設計開発を行う。さらに、化学療法薬やワクチンなどが未だ開発されていない感染症に対する新規高活性化合物の設計開発も行う。 数年前の仕分けにより国民的関心を収めたスーパーコンピュータが実際に稼働を開始し、コンピュータ支援型システムによる創薬開発にかかる期待が高まっている。しかし、2000年代までの創薬に用いられてきたコンピュータ支援型創薬システムは、計算コストの制限から経験的なパラメータを用いた分子力学計算に基づいていたため、多くの制限や問題点があった。その一方で、近年、量子化学理論に革新的ブレイクスルーがあり、その中でも、スーパーコンピュータCMSI神戸拠点の北浦によって考案されたフラグメント分子軌道法は、ゲノム情報を基に特定された標的タンパク質をまるごと化学精度で全電子計算することができるため、世界的注目を集めている。現在では、全電子計算に基づく理論創薬もいよいよ実用段階に入ったとして、学術的な意義に留まらず社会的にも大きな反響がある。そこで本研究では、実際の上市を目指した薬物の論理的設計開発ステージに対するコンピュータ支援型創薬のパラダイムシフトを図った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
タンパク質の全電子計算手法としてのFMO法は今や成熟期にあり、方法論的には確立されつつある。しかしながら、実際の創薬標的タンパク質に適用し、合理的設計により新規薬物として成功した例はほとんどない。そのような中、研究代表者は、抗インフルエンザウイルス薬標的である表面タンパク質Neuraminidase(NA)に対して、全9種あるNAの亜型のすべてに有効であり、かつヒト体内に存在するNeuのすべての亜型4種には不活性な新規抗インフルエンザウイルス薬候補化合物の設計開発に成功し、その成果を国内外の専門学会にて発表した。さらにTop Journalへの初年度内の公表を目指し投稿したが、複数の修正点を必要とされ、現在、長時間MDによる考察を加えて再投稿に向け準備中である。また、実験のみからは不明であった新規抗インフルエンザ化合物のウイルスの表面タンパク質への作用点および分子論的作用機構を明らかにし、より活性の高い立体配置の理論的予測に成功した。これらの成果の一部について、国際会議で優秀発表賞を受賞した。この新規化合物は、従来までの抗インフルエンザ薬が有する糖骨格とは異なる食品由来の新規物質で、NAだけなくHAにも阻害作用を示すため、新たな作用機序を持つ抗インフルエンザ薬候補化合物として期待されている。現在、理論的に示唆された作用点を実験的に確証するため、化合物の全合成および絶対構造決定を実行中であり、HAおよびNAとの共結晶化も試みている。同様の理論的手法を用いて、サルモネラの標的タンパク質の基質特異性や工業化に有用な植物由来の各種酵素の活性などについても解析し、J.Biol.Chem, FEBS OpenBioに発表した。また、長期投与でも副作用が発現しにくい核内受容体の新規パーシャルアゴニストについてもJ.Med.Chem.に公表し、さらに複数の投稿を予定している。
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今後の研究の推進方策 |
インフルエンザウイルスのHAおよびNAの異なるポイントに作用し、かつヒト体内のNeuには不活性な化合物の開発およびその作用機序の理論的解明に成功したので、今後はその理論的結果を実験的に立証するために、当該化合物の化学合成法を確立し、さらなる高活性化合物の創製に向けて各種誘導体の設計、合成へとステップアップする。また、デングウイルスに対しては、表面envelopタンパク質のヒンジ部に作用する高活性な化合物の合理的設計、開発に成功したが、それに引き続きウイルス全体の全電子計算の実行に向けてスーパークラスタを利用した大規模計算の実行を予定している。今までにウイルス全体のシミュレーションとしては、「全原子レベル」のMD計算はあるが、第一原理的全電子計算の例はない。これが実行されれば、ヒンジ部に作用する薬物候補化合物の結合に伴う、ウイルス表面全体の動的変化を追跡ができるため、今まで化学療法剤がない熱帯ウイルスなどに対する世界初の阻害剤の創製に繋がるものと期待される。またデングウイルスで用いた手法は日本脳炎ウイルスなどへの適用が可能なため、その応用範囲は極めて大きい。一方、核内受容体の新規パーシャルアゴニストの開発としては、長期投与でも副作用リスクを抑えるため、AF2モチーフとの相互作用を柔軟にコントロールし、特定の共役因子とだけ結合できるような特異性を持った新規モジュレ―タの開発に挑む。それらのモジュレ―タはアルツハイマー病、パーキンソン病などのアンメットメディカルニーズの高い疾病にも有効であると考えられる。さらには、糖尿病治療薬のうち、近年急激に市場規模を拡大しているDPP-4阻害剤の作用機序を理論的に解析することによって、同一標的にも関わらず、薬物の構造多様性がある原因を明らかにしていく。これらの成果に関しては臨床研究者との交流によって理論化学と臨床医学との有機的な融合を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究成果発表や研究打ち合わせのための出張に伴う現地精算などの執行額が予定よりも少なかったため、残額が生じたため。 次年度使用額は早い段階で計算関連消耗品として、執行予定である。
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