研究課題
基盤研究(C)
重症呼吸器症候群SARSおよびアルツハイマー病の原因は異なるが、その治療には鍵となるプロテアーゼの阻害が最も有望と考えられている。本研究では、これら疾患の発症の鍵となるプロテアーゼ阻害に基づく治療薬開発を目的として非ペプチド型阻害剤の創製を行う。各疾患の標的プロテアーゼは、SARS 3CLプロテアーゼとβセクレターゼBACE1である。SARSプロテアーゼ阻害剤開発研究では、申請者がこれまで進めてきた複合体構造解析研究で明らかにしたペプチド性阻害剤とプロテアーゼとの主要相互作用部位である疎水性側鎖構造を環構造に組み込んだデカリン型骨格を論理的に設計し、これまでに例のない新規非ペプチド型阻害剤を設計・合成し、阻害活性評価を行った。その結果、窒素原子を含むNデカリン型阻害剤の選択的合成法を確立することに成功した。さらに、得られた化合物が数十μモルレベルのIC50値を示すSARS 3CLプロテアーゼ阻害活性を示すことを確認した。現在、SARS 3CLプロテアーゼとの複合体結晶作製条件の確立を進めている。BACE1阻害剤開発研究では、オレフィンへの立体特異的エポキシ化と続くアミン化合物の付加反応を利用した水酸基の立体選択構築法を確立することに成功した。ついで、得られた各種阻害剤の評価により、阻害活性発現の核となる水酸基の立体配置が阻害活性発現にきわめて重要であることを明らかにした。さらに、数十μモルレベルのIC50値を示す阻害剤とBACE1との複合体のX線結晶構造解析によって、水酸基の相互作用様式を原子レベルで解析することに成功した。現在、阻害剤ノンプライムサイトでの相互作用増強を目指し、新たな環状骨格を有する新規阻害剤合成を進めている。
2: おおむね順調に進展している
Nデカリン型SARSプロテアーゼ阻害剤開発研究では、当初計画通りの合成ルートに基づく合成法を確立した。すなわち、デカリン型母核骨格とHis側鎖との連結には還元的アミノ化を用いることにより、母核化合物は前駆体の二価パラジウムを触媒とする環化反応により、それぞれ合成に成功した。二価パラジウム触媒による環化反応の前駆体合成に必要となる6員環化合物は、当初計画通り1,3-プロパンジオールより得た誘導体とブタジエンとのDiels-Alder反応により合成することに成功した。また、最も困難が予想されていた最終段階でのアルデヒド体への変換は、Weinrebアミドの還元反応条件を検討する事により再現性良く行える合成ルートを確立した。得られた化合物のうちいくつかは予想通り数十μモルレベルのIC50値を示すSARS 3CLプロテアーゼ阻害活性を示すことが分かった。BACE1阻害剤開発研究では、HEA型基質遷移状態概念に基づく阻害剤設計を行い、その基質遷移状態mimic水酸基の立体選択的構築法を確立することに成功した。得られた阻害剤の活性評価により、基質遷移状態骨格構造の違いにより、中心水酸基の活性配置が異なることを初めて明らかにした。さらに、数十μモルレベルのIC50値を示す阻害剤についてBACE1との複合体X線結晶構造解析を行うことにも成功し、その水酸基立体配置の違いに基づく相互作用様式をはじめて原子レベルで解析した。
Oデカリン型SARS 3CLプロテアーゼ阻害剤に関する研究;N型とは異なる相対配置での置換基導入が可能なOデカリン型阻害剤の合成と構造解析研究を進める。すでに合成経路を確立したNデカリン型阻害剤合成ルートを参考にしつつOデカリン型阻害剤の合成を行う。母核となるOデカリン骨格への側鎖部分の導入にはグリニャール反応と還元的アミノ化反応を用いる。必要となるOデカリン骨格は前駆体の不斉エポキシ化と続く環化反応により立体選択的に合成する。環化前駆体の調製に必要な6員環構造はブタジエンとのDiels-Alder反応を利用して構築する。BACE1阻害剤については、前年度から引き続きBACE1複合体構造解析を進めるとともに、側鎖置換基を主鎖構造に取り込んだ環状骨格の設計・合成を行う。環状化合物への変換は、オレフィンメタセシス反応やHeck反応を利用する。これら環状化に必要となる前駆体は、対応するアミノ酸を立体選択的に合成することにより調製する。申請者はすでにRGD環状ペプチドライブラリーの構築研究においてHeck反応による環状化反応条件を確立しており、Heck反応を利用した環状化反応では同条件をもとに反応条件を探索する。前年度までの研究により、申請者はすでにSARS 3CLプロテアーゼやBACE1とそれぞれの阻害剤との複合体結晶化条件をほぼ確立しており、新たに合成した化合物についても積極的にX線結晶構造解析を進める予定である。
当初計画では、それぞれの標的酵素に対する阻害剤合成と活性評価、および複合体構造解析を並行して進める計画であった。しかし研究の効率的進展を図るため、初年度は化合物合成を集中して進展させ、得られた化合物の阻害活性評価と構造解析研究については予備的な研究にとどめることとした。このため、当初予定していた酵素調製や複合体結晶化条件にかかる費用が大幅に節約できたため次年度使用額が発生した。次年度からはより詳細な阻害活性評価と複合体構造解析を進めるため、本次年度使用額はほぼ解消される予定である。
すべて 2013 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
Eur. J. Med. Chem.
巻: 65 ページ: 436-447
10.1016/j.ejmech.2013.05.005
Bioorg. Med. Chem.
巻: 21 ページ: 412-424
10.1016/j.bmc.2012.11.017
Tetrahedron Lett.
巻: 54 ページ: 4848-4850
10.1016/j.tetlet.2013.06.103
巻: 68 ページ: 372-384
10.1016/j.ejmech.2013.07.037
http://labo.kyoto-phu.ac.jp/yakuhin/index.html