本研究は、ヒト胎児肝(HFL)細胞を用いた胎児毒性評価系を構築し、その分子毒性基盤を確立することを目的とした。 本年度は、前年度に示された5-フルオロウラシル(5-FU)によるCYP3A7の発現誘導およびデキサメタゾン(DEX)による硫酸転移酵素(SULT)1E1の発現誘導についてさらに解析を進めた。5-FUは、ストレス応答性MAPKの1つであるp38 MAPKを活性化して炎症性サイトカインやトロンボスポンジン-1の発現を誘導することが報告されている。そこで、p38 MAPK阻害剤を用いて、5-FUのCYP3A7発現誘導能に対する影響を検討した結果、5-FUによるCYP3A7の発現誘導はp38 MAPK阻害剤であるSB203580によって有意に抑制された。このことから、5-FUによるCYP3A7の発現誘導にはp38 MAPKが関与していることが示唆された。一方、DEXはヒト乳癌由来MCF-7細胞のグルココルチコイド受容体(GR)を介してSULT1E1の発現を誘導することが報告されている。そこで、GRアンタゴニストを用いて、DEXのSULT1E1発現誘導能に対する影響を検討したところ、DEXによるSULT1E1の発現誘導はGRアンタゴニストであるRU-486によって有意に抑制された。このことから、DEXによるSULT1E1の発現誘導にはGRが関与していることが示唆された。 次に、初年度の研究で細胞毒性を示したタモキシフェン、ジクロフェナク、all-trans-レチノイン酸(ATRA)を用いて、GSH枯渇によりグルタチオン-S-転移酵素(GST)の機能が欠失したHFL細胞に対する毒性評価を行った。その結果、これら化合物による細胞毒性はGSTの機能が欠失しても増強しなかった。このことから、GSTはこれらの細胞毒性の防御的役割を果たしていないことが示唆された。
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