研究課題/領域番号 |
25460172
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研究機関 | 帝京平成大学 |
研究代表者 |
小川 裕子 帝京平成大学, 薬学部, 准教授 (30267330)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | マクロファージ / エキソソーム / 一酸化窒素 / 細胞間情報伝達 / LPS / インターフェロンーγ / DPP IV / 唾液 |
研究実績の概要 |
DPP IV-エキソソームのLPS濃度とマウスマクロファージ細胞株(RAW264.7)のNO産生との関係を検討した。唾液由来DPP IV-エキソソームには唾液中LPSのうち約10%が存在していた。NO産生はLPS量に比例していた。さらにインターフェロンγ(IFN-γ)添加で顕著に増加した。NO産生を亢進する濃度は口腔内のIFN-γ濃度より高いので、エキソソームには他のNO産生増強因子の存在が考えられた。NO産生はToll-like receptor 4 (TLR4)ノックアウトマウス(KO)由来マクロファージ(Mφ)では見られなかったので、TLR4を介すると考えられた。TLR4-KO-MφにエキソソームとIFN-γを添加すると、野生型マウスの25~50%程度のNO産生が起きた。LPSによるMφの活性化にはTLR2も介するので、このNO産生はTLR2由来である可能性が考えられた。 エキソソームの臨床的応用および体内挙動の解析を目的とした安定性の検討を行った。唾液採取後4 ℃、7日間保存後にDPP IV-エキソソームを精製し、採取直後の精製品と比較したがDPP IV活性、形態などに変化はみられなかった。DPP IVエキソソーム精製品は37 ℃、pH 7.4、10時間後にDPP IV活性、形態、エキソソームタンパク質(DPP IV、CD9、Alix、tsg101)に変化は見られなかった。パンクアチン添加(腸内条件)では、3時間で形態変化は見られなかったが、一部タンパク質は分解した。pH3では3時間後に形態は変化しなかったが、DPP IV活性の減少、一部タンパク質の分解が見られた。ペプシン添加(胃内条件)では形態がやや不明瞭となり、一部タンパク質の分解が見られた。口腔内に分泌されたエキソソームの一部は腸内に達する可能性があると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度-27年度にかけて、エキソソーム免疫カスケードの全容の解明および機能性エキソソームの開発とその臨床的応用のための分子基盤の構築を行う予定としている。平成26年度にDPP IV-エキソソームのLPS量とNO産生は比例していることを明らかにした。唾液中にはDPP IV-エキソソームとDPP IV非含有エキソソームが存在するが、前者のLPS濃度は後者の10倍以上高かった。そこで口腔内の免疫活性化機構に着目して検討したところ、一定以上のLPSが存在するとIFN-γ共存下で顕著なNO産生が見られた。よって外来抗原の感染が起こるとDPP IV-エキソソームが産生されてLPSを捕捉する結果、MφからのNO産生の閾値を超えて感染防御に働くことが考えられた。ただし、唾液中でDPP IV-エキソソームによるNO産生が起こるためにはさらにサイトカインなど他の因子が関わると考えられる。DPP IV-エキソソームにはLPS結合関連タンパク質群(CD14、LBP、MD2など)が豊富に含まれていることも明らかにしたので、NO産生との関係を精査すれば、エキソソーム免疫カスケードの全貌を解明できると考える。 機能性エキソソーム作成のためのDPPIV-エキソソームの精製時の安定性および生体内での挙動について検討した。DPP IV-エキソソームは全唾液を採取後1週間は4℃保存後の精製が可能であること、口腔内のみならず腸内に到達して情報伝達する可能性が示唆された。従って、唾液中のDPP IVエキソソームは患者から採取後、簡単に精製可能で保存性も高く、機能性分子を取り込ませれば、体内を循環しながら機能する可能性がある。以上の知見を基に免疫賦活化作用を持つ機能性エキソソームを作成すれば、新しいオーダーメード治療となりうる。よって、研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定通り、エキソソーム免疫カスケードの全容の解明および機能性エキソソームの開発とその臨床的応用のための分子基盤の構築を行う。DPP IV-エキソソームによる自然免疫賦活化作用において、特に口腔内の外来抗原の補足とMφの活性化作用の機構を解明する。唾液DPP IV-エキソソームは唾液タンパク質のうち2%程度であるが、唾液LPSの10%程度がエキソソームに存在している。エキソソーム上のLPSによる自然免疫の活性化経路はこれまでに報告がなく、外来抗原に対する口腔内での生体防御に関して、エキソソームによるMφ活性化が重要な役割を担っている可能性があるので、その機構を明らかにする。DPP IV含有エキソソームとDPP IV非含有エキソソームではNO産生作用に大きな差があるので、2種類のエキソソームの分子組成の差を精査し、外来抗原の侵入によるエキソソームの組成の変化およびMφ活性化の増強度の関連を検討し、口腔内での生体防御におけるエキソソームの役割を明らかにする。すでにプロテオーム解析とトランスクリプトーム解析の結果を精査し直し、候補となるタンパク質、RNA分子種をリストアップしている。その過程で、エキソソームには口腔内感染に由来すると考えられる外来生物由来のRNAが多く含まれることを見いだしたので、感染とRNA組成の変化も検討している。 機能性エキソソームの構築については、当初は培養細胞由来のエキソソームを使用する予定であったが、唾液エキソソームの物理化学的安定性を明らかにし、体内循環経路を精査中である。今後は唾液エキソソームの免疫賦活化作用を増強した機能性エキソソームの構築を行い、口腔内感染のオーダーメード治療を目指したい。同定したMφ活性化因子を、エキソソームに内包あるいは外部に結合させ、エキソソームの口腔内から体内への分布と機能性を検討する予定である。
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