研究課題/領域番号 |
25460173
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
津川 仁 慶應義塾大学, 医学部, 特任講師 (30468483)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | オートファジー / CagA / ピロリ菌 / 胃がん / 宿主細胞応答 |
研究実績の概要 |
ピロリ菌の産生するがん蛋白質CagA は宿主細胞内へ装填されるが、オートファジーにより分解される。また、このオートファジーは、ピロリ菌の分泌毒素VacAが宿主細胞表層のLRP1蛋白質に結合することで誘導される。前年度までの本研究により、VacA結合後のLRP1-ICDドメインは核内移行し、lysosome表層蛋白質の転写因子として機能することで、autophagolysosomeの形成が促進しCagA分解性オートファジーが完結する機序を明らかとした。さらに、核内移行したLRP1-ICDドメインに結合するタンパク質(LRP1-binding protein)をnano LC-MS/MS解析で同定している。本年度の研究により、LRP1-binding proteinの過剰発現細胞ではautophagyが抑制され、CagAが蓄積することを明確にしたことから、LRP1-binding proteinの発現制御が破綻した細胞へのCagAの装填が発がんシグナルの亢進に関わる重要な宿主細胞キャラクターであると考えられた。興味深いことに、ピロリ菌感染に関わらず、LRP1-binding protein発現が亢進状態にある細胞が存在することがピロリ菌感染動物実験により明らかとなった。そこで、LRP1-binding proteinの発現制御システムをエピジェネティクス制御に注目して解析した結果、LRP1-binding proteinの発現は、DNAメチル化制御の関与は少なく、promoter領域のアセチル化制御を受けている可能性がバイサルファイトシークエンス解析及びChip assayにより示唆された。LRP1-binding protein発現が亢進状態にある細胞へのピロリ菌感染によるCagA装填は、ピロリ菌感染時の胃発がんリスクを規定する宿主側の重要な指標となる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CagA分解性オートファジーの発現誘導に関わるLRP1シグナルの解析を目的とした研究であるが、これまでに、LRP1-ICDが核内でlysosome表層蛋白質の転写因子として機能している機序を明確とし、それに加えて、LRP1-ICDに結合しオートファジーの発現を負に制御する分子の同定と、その分子の過剰発現細胞の存在を明確にできた。つまり、オートファジーの発現機序に関わるLRP1の機能解析から、ピロリ菌感染時のCagA蓄積性細胞キャラクターの同定に迫る分子メカニズムが明らかとなりつつあり、胃発がんリスクを規定する宿主細胞キャラクターの同定に向けて順調に計画が進行していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の成果により、LRP1-binding protein過剰発現細胞へのピロリ菌感染が、CagA蓄積を介した胃発がんリスクを規定する宿主側の要因となる可能性が示唆され、さらに、LRP1-binding protein過剰発現細胞が存在することも動物実験で示された。そこで、LRP1-binding proteinの過剰発現がどの様な機序で誘導されるかを明確にし、LRP1-binding protein過剰発現細胞のキャラクター同定に繋げる。また、LRP1依存的な細胞内グルタチオン低下誘導機序の解明を、網羅的代謝産物解析といった手法を導入することで実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画していたよりも順調にin vitro蛋白発現解析が進行し、抗体等のタンパク発現解析に係る費用に次年度使用額が生じた。また、よく知る先生との共同研究が実施でき、タンパク発現解析において共同研究先での研究が実施できたため次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
in vitro蛋白発現解析並びに機能解析が順調に進んだことから、次年度使用額では、これら蛋白質のin vivo蛋白発現解析並びに機能解析に使用する計画であり、より詳細な標的蛋白質の機能解析を実施する計画である。
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