胎仔期に経験した亜鉛欠乏が成獣へと成長した後の遺伝子発現応答や免疫応答に影響を及ぼすことが報告されている。近年、Developmental Origins of Health and Diseases (DOHaD: 成長過程における栄養障害や環境因子の作用に起因する疾患の発生)という概念が提唱されているが、胎仔期の亜鉛欠乏もまた、DOHaDの一要因となると考えられる。栄養障害などがエピジェネティックな記憶として細胞に残ることがDOHaDの1つの機構として予想されるためである。本研究では、低亜鉛がもたらすエピジェネティックな変化とその機序を明らかにすることでDOHaD機構を理解する上で必要不可欠な知見を得ることを目的としている。前年度に引き続き、培養細胞を用いて低亜鉛培養によるエピジェネティックな変化を見いだすためバイサルファイト法によるDNAメチル化程度の変化の観察を行った。その結果、低亜鉛での培養期間を1か月にまで延長しても低亜鉛培養による変化は観察されなかったが、低濃度カドミウムでの1週間の培養によって、その後のカドミウムによるメタロチオネイン誘導が亢進するという現象を見出した。そこで、この機序解明に向けた検討を行った。その結果、わずかではあるものの低濃度カドミウムでの1週間培養により、メタロチオネイン遺伝子プロモーター領域のDNAメチル化割合が減少することが明らかとなった。このメチル化割合減少の機序の解明、ならびに、この減少がメタロチオネイン遺伝子発現に与える影響に関する評価の途中ではあるが、本研究課題により、低濃度の重金属曝露がエピジェネティックな変化を惹起するという現象を捉え、その機序の一端がDNAの脱メチル化である可能性を示唆することが出来た。
|